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じりじり

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「怒らないでよ、小松君」
「怒りますよ! 学校であんな……っ、しかもトリコさんにまでバレちゃって、もう、ココさんの馬鹿っ!」
 ココさんの少し前を歩きながら、僕はぽこぽこと頭から湯気を立てていた。ココさんは本当に申し訳なさそうにしてはいるけど、反省している様子はない。
「あ、小松君」
「なんですか!」
「そこ、右」
 ココさんの言葉に僕は振り返り、じろりとココさんを睨んだ。ココさんは、そんな僕の少し後ろで立ち止まった。
「……この状態で僕があなたの家にいくとでも?」
「それもそうか」
 僕はおやと、若干どこかで拍子抜けした。あんなにしつこく誘ってきたのだ、また言い包めて自分の思い通りにしようとするのだろうと思っていたものだから。
「……行かなくて、いいんですか?」
「君が本当に嫌なら、したくないから」
 少し寂しそうに笑いながら言ったココさんの言葉に、ぐらりと心が揺れる。だけどここで折れては全く意味がない。僕はあくまでも怒った風を装いながら、ココさんの顔から視線を逸らした。
「が、学校であんなこと、するなん、て!」
「うん、ごめんね」
 思い出しただけで、今でもぶるりと体が震える。最初の時もそうだけど、誰かにバレてしまったら、ココさんは一体どうするつもりだったのか。
「トリコさんにまで、バレ、て……」
「あいつは鼻がいいからね……」
「だったら!」
 ココさんの言葉に、僕は視線をココさんへと向けた。思いのほかすぐ傍にあった端整な顔に僕が目を丸くすると、ココさんの指先が僕の頬を撫でた。
「でも、君を独り占めしたいから」
「……ッ、」
 僕がじりと半歩下がると、ココさんは僕の二歩分の距離を詰めてくる。僕らがいた道は丁字路だ。すぐに僕の背中に、硬いコンクリートの壁がぶち当る。
「いっつも君はトリコと次はどこにハントしにいくかって話で盛り上がって、すぐにそれに乗ってしまうだろ?」
「こ、ココさん……っ」
 嫉妬しているんだよ。と、ココさんは言って、僕の顎へと手を滑らせる。僕の胸の中は、今やパニック状態だった。このままではキスされてしまう。人気はないけれどここは道の上で、誰が通るかもわからない所で、誰に見られているかもわからない、のに。
 どくどくと心臓の鼓動が煩い。ココさんの指先に唇を撫でられて、僕の瞼はゆるゆると落ちていく。
「……ごめん、ここだと君は嫌だよね」
 触れるのかと思った唇は、呆気なく離れていく。きょとんとする僕から距離を置いて、ココさんは苦笑した。
「ごめん。もうあんなことしないし、君の許可なくこういうことをするのも止めるように努力する」
 努力? 僕が問い返すと、ココさんは唇を抑えて明後日の方向を向いた。その頬が紅いのは、夕陽のせいか、それとも。
「……だって、大好きな子を前にして、触れたいとか、嫉妬とか、それを全部我慢できる奴なんているの?」
 そんな奴いるなら僕にはそいつが聖人君子に見えるよ。
 ココさんはそう言って、困ったように眉尻を下げた。その姿に、思わず僕は言葉を失った。あの理知的で、何に対しても理性が働いているようなそんなココさんが、僕を前にするとそれも厳しいと、そう言っているのだ。何も思わない方が、それこそどうかしている。
 ぼっと紅くなった頬を隠すように俯き、僕は丁字路を右に曲がって歩きだす。僕の家とは、反対の方向だ。
「こ、小松君? 怒ったの? ごめん! でも、そっちは、」
 ココさんが慌てたように僕の後ろを少し距離をあけてついてくる。学園一のイケメンと言われている優男がおろおろする様を振り返り、僕は唇を一度噛むと、ゆっくりと口を開いた。
「……ココさんの家、行くんでしょ?」
「え?」
「早く案内して下さいよ!」
 わかんないんだから! そう言うと、ココさんはきょとんとした後に、ぱっと花が綻ぶように笑った。
 その姿に僕が息を呑むよりも早く、ココさんの手が僕に伸びてくる。
「小松君っ!」
「うわあっ?! ちょっ、こんなところでいきなりくっつかないでくださいよ!」
 ココさんにぎゅうぎゅうと抱き潰されるくらいの勢いで抱かれながら、我ながら現金かもしれないと密かに思う。だけど、それでもいいやと思ってしまうのだから、自分は相当ココさんにのめり込んでいるようだ。
 僕はそんなことを思いながら、ココさんに気付かれないようにひっそりと笑った。
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