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「……ッ、小松君?!」
影からぬっと姿を現したのは、蛇のような大蛇だった。小松は足を止めて、真っ暗な辺りを見渡した。辺りを漂うおぞましいその気配に、小松は改めて身を震わせる。
奥に何か、いる。
小松の意識は、大蛇よりもそのずっと後ろの暗がりに向けられていた。
「何してるんだ、はやくここから……っ!」
ココが小松に意識を向けた瞬間、デビル大蛇の腕がココの体を捕らえた。
「ココさんっ!」
「ココ!」
「来るな! トリコも余計はお節介は不要だよ」
駆け寄ろうとした小松に、ココは叫ぶ。そのびりびりとした覇気のような何かに、小松の足は止まった。トリコも舌打ちをすると、デビル大蛇を睨みつける。
「小松君、君は逃げろ! トリコと僕なら大丈夫だから!」
違う! と、叫びたかった。上手くは言えないけれど、もっと何か良くないことが起こりそうな気がしていた。あやふやなそれを口にするかどうか迷っているうちに、ココの声音に苦悶の色が浮かぶ。ココを掴むその締め付けが、より一層強くなったようだった。
「ぐ、ぅ!」
「こ、ココさん……っ!」
「小松! 何してんだ、いいから逃げろって言ってんだろうが!」
トリコが「何してんだ、メルク!」と、叫んだ瞬間、影の中で動きが取れずにいたメルクが、ハッとしたように体を揺らした。
その白い腕は小松の体を抱き寄せようとしたが、やはり上手くいかず、小松を捕らえることが出来ない。
おかしい、とメルクは眉間に皺を寄せる。まだ子供なのだ、いつもなら易々と捕まえられるその小さな体が、今はやけに大きく見えるようだった。
「……シェフ、」
メルクの困惑している声に、ココの低い悲鳴のような声が重なる。真っ暗闇の中では、小松には何が起きているかは見えない。
その苦痛に満ちた声に、尋常でない何かが起きていることだけは小松にもよくわかった。
「ココさん!」
小松は悲鳴をあげてココの名を呼ぶ。けれども、ココは動こうとしたトリコを制し、にやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「……あまり君の前で、こんな姿にはなりたくなかったんだが」
「ココさん?」
「デビル大蛇の毒、か。まあ、持ってて損はないしね」
今が真っ暗闇でよかったよ。と、暢気に呟くココを、トリコが鼻で笑った。
「びびってんのか、優男さんよ」
「食いしん坊ちゃんほど、僕はこの姿を人に見せることを良しとしていないからね」
二人の会話に全く意図が掴めず、小松は首を傾げる。暗闇の中で何が起こっているのか全くわからないまま、小松はよろよろと気配のする方向へと足を進める。
「小松君、それ以上、動かないで」
ココの声に、小松はびくりと体を竦ませた。どうやら、ココには自分の姿が見えているらしいと悟って、小松はきょろきょろと辺りを見渡した。
やはり、真っ暗で見えない。小松が再び首を傾げる間もなく、デビル大蛇は叫び声をあげた。どちらかと言えば切羽詰ったような声に、小松はごくりと生唾を飲み込む。
ぼたぼたと落ちる音と共に、何かの溶けるような音が聞こえてきた。小松が身を硬くしている間にも、辺りには何かが溶けるような、嫌な臭いが充満してくるようだった。
「トリコ、いくぞ!」
「おお、その言葉を待ってたぜ! 頼むぜ、ココォ!」
そんな二人の声と共に、暴れまわる大蛇の声を小松の耳は拾う。地響きのような、何かが壁にぶつかるような音が暫く響いた後、突如辺りは物音もなく、しんと静かになった。
「……ココさん、トリコさん?」
小松はそろりと動いてみた。誰にもそれを咎められることはない。
まさか共倒れだろうか?
そう思って小松が手探りで二人を探し出そうとした瞬間、ぼうと小松の目の前で灯りが灯った。
「ったくぅ、手こずらせやがって……ここが暗闇じゃなきゃなあ」
「トリコさん!」
ぼりぼりとその青い髪を土でくすんだような色に変えたトリコが、疲労困憊と言った風に地べたに座り込んでいる。
その横にはちゃんとココもいて、そちらは彼らしくもなく地べたに倒れこんでいた。
「ココ、さん!」
小松は二人の姿に、ほっと胸を撫で下ろす。その傍らでは、大蛇がその大きな図体を横たえていた。息も絶えているようだ。
「……ふわ、凄い」
「あまり近付いてはいけないよ。それにも、僕らにも」
ココは小松の声に気付くと、僅かに顔を顰めながらその身を起こす。改めて二人の姿を見た小松は、自分の見えない所で二人が激しい戦いを繰り広げていたのだと知った。
二人は全身ボロボロといった風で、ココもトリコも満身創痍と言っても過言ではない状態になっていた。
「……小松君」
二人の姿にとりあえずは無事であることを確認した小松は、ほっと胸を一旦撫で下ろす。そんな小松に、ココの咎めるような声が向けられた。
「どうして逃げなかったの? 今回は君に害がなかったから良かったけれど、もしも万が一……」
それは暗に、戦いの場に小松は不要といわれているようだった。実際、そうなのだろう。確かに小松はそれ程に弱く、頼りない。
小松は首を振った。
「ごめんなさい。謝罪なら後でいくらでもします、だけど、今は早く、ここから出ましょう?」
「小松君……?」
「はあ? もうちっと休ませろよ、小松ゥ」
駄目だと、小松はいやいやするように首を振った。そのただならぬ気配に、ココは眉間に皺を寄せる。トリコの肩を叩き、立ち上がることを促したココの表情に、トリコの表情も鋭いそれに変わった。
「上手く言えないんですけど、ここは凄く嫌なんです。もっと奥に、何かおぞましいものがいるような気が、して」
「……麒麟である小松君が言うんだ、間違いないだろうね。トリコ、ここは早々に立ち去った方が良さそうだ」
「……しゃあねえ、行くか」
よいせっと言いながら、トリコはデビル大蛇を解体するとその背に背負った。相変わらず食い意地の悪い奴だとげんなりした表情のココを眺めながら、小松が苦笑した時だったろうか。
「にゃあ!?」
「……小松君っ!?」
小松の体を、何かが攫う。その小さな体はあっという間に闇に呑まれて消えた。
「くそっ、こんな時に……!」
「ことごとく運がわりぃな、今日はよ!」
ココとトリコは構わず、小松の後を追って暗い穴の中へと飛び込んだ。
影からぬっと姿を現したのは、蛇のような大蛇だった。小松は足を止めて、真っ暗な辺りを見渡した。辺りを漂うおぞましいその気配に、小松は改めて身を震わせる。
奥に何か、いる。
小松の意識は、大蛇よりもそのずっと後ろの暗がりに向けられていた。
「何してるんだ、はやくここから……っ!」
ココが小松に意識を向けた瞬間、デビル大蛇の腕がココの体を捕らえた。
「ココさんっ!」
「ココ!」
「来るな! トリコも余計はお節介は不要だよ」
駆け寄ろうとした小松に、ココは叫ぶ。そのびりびりとした覇気のような何かに、小松の足は止まった。トリコも舌打ちをすると、デビル大蛇を睨みつける。
「小松君、君は逃げろ! トリコと僕なら大丈夫だから!」
違う! と、叫びたかった。上手くは言えないけれど、もっと何か良くないことが起こりそうな気がしていた。あやふやなそれを口にするかどうか迷っているうちに、ココの声音に苦悶の色が浮かぶ。ココを掴むその締め付けが、より一層強くなったようだった。
「ぐ、ぅ!」
「こ、ココさん……っ!」
「小松! 何してんだ、いいから逃げろって言ってんだろうが!」
トリコが「何してんだ、メルク!」と、叫んだ瞬間、影の中で動きが取れずにいたメルクが、ハッとしたように体を揺らした。
その白い腕は小松の体を抱き寄せようとしたが、やはり上手くいかず、小松を捕らえることが出来ない。
おかしい、とメルクは眉間に皺を寄せる。まだ子供なのだ、いつもなら易々と捕まえられるその小さな体が、今はやけに大きく見えるようだった。
「……シェフ、」
メルクの困惑している声に、ココの低い悲鳴のような声が重なる。真っ暗闇の中では、小松には何が起きているかは見えない。
その苦痛に満ちた声に、尋常でない何かが起きていることだけは小松にもよくわかった。
「ココさん!」
小松は悲鳴をあげてココの名を呼ぶ。けれども、ココは動こうとしたトリコを制し、にやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「……あまり君の前で、こんな姿にはなりたくなかったんだが」
「ココさん?」
「デビル大蛇の毒、か。まあ、持ってて損はないしね」
今が真っ暗闇でよかったよ。と、暢気に呟くココを、トリコが鼻で笑った。
「びびってんのか、優男さんよ」
「食いしん坊ちゃんほど、僕はこの姿を人に見せることを良しとしていないからね」
二人の会話に全く意図が掴めず、小松は首を傾げる。暗闇の中で何が起こっているのか全くわからないまま、小松はよろよろと気配のする方向へと足を進める。
「小松君、それ以上、動かないで」
ココの声に、小松はびくりと体を竦ませた。どうやら、ココには自分の姿が見えているらしいと悟って、小松はきょろきょろと辺りを見渡した。
やはり、真っ暗で見えない。小松が再び首を傾げる間もなく、デビル大蛇は叫び声をあげた。どちらかと言えば切羽詰ったような声に、小松はごくりと生唾を飲み込む。
ぼたぼたと落ちる音と共に、何かの溶けるような音が聞こえてきた。小松が身を硬くしている間にも、辺りには何かが溶けるような、嫌な臭いが充満してくるようだった。
「トリコ、いくぞ!」
「おお、その言葉を待ってたぜ! 頼むぜ、ココォ!」
そんな二人の声と共に、暴れまわる大蛇の声を小松の耳は拾う。地響きのような、何かが壁にぶつかるような音が暫く響いた後、突如辺りは物音もなく、しんと静かになった。
「……ココさん、トリコさん?」
小松はそろりと動いてみた。誰にもそれを咎められることはない。
まさか共倒れだろうか?
そう思って小松が手探りで二人を探し出そうとした瞬間、ぼうと小松の目の前で灯りが灯った。
「ったくぅ、手こずらせやがって……ここが暗闇じゃなきゃなあ」
「トリコさん!」
ぼりぼりとその青い髪を土でくすんだような色に変えたトリコが、疲労困憊と言った風に地べたに座り込んでいる。
その横にはちゃんとココもいて、そちらは彼らしくもなく地べたに倒れこんでいた。
「ココ、さん!」
小松は二人の姿に、ほっと胸を撫で下ろす。その傍らでは、大蛇がその大きな図体を横たえていた。息も絶えているようだ。
「……ふわ、凄い」
「あまり近付いてはいけないよ。それにも、僕らにも」
ココは小松の声に気付くと、僅かに顔を顰めながらその身を起こす。改めて二人の姿を見た小松は、自分の見えない所で二人が激しい戦いを繰り広げていたのだと知った。
二人は全身ボロボロといった風で、ココもトリコも満身創痍と言っても過言ではない状態になっていた。
「……小松君」
二人の姿にとりあえずは無事であることを確認した小松は、ほっと胸を一旦撫で下ろす。そんな小松に、ココの咎めるような声が向けられた。
「どうして逃げなかったの? 今回は君に害がなかったから良かったけれど、もしも万が一……」
それは暗に、戦いの場に小松は不要といわれているようだった。実際、そうなのだろう。確かに小松はそれ程に弱く、頼りない。
小松は首を振った。
「ごめんなさい。謝罪なら後でいくらでもします、だけど、今は早く、ここから出ましょう?」
「小松君……?」
「はあ? もうちっと休ませろよ、小松ゥ」
駄目だと、小松はいやいやするように首を振った。そのただならぬ気配に、ココは眉間に皺を寄せる。トリコの肩を叩き、立ち上がることを促したココの表情に、トリコの表情も鋭いそれに変わった。
「上手く言えないんですけど、ここは凄く嫌なんです。もっと奥に、何かおぞましいものがいるような気が、して」
「……麒麟である小松君が言うんだ、間違いないだろうね。トリコ、ここは早々に立ち去った方が良さそうだ」
「……しゃあねえ、行くか」
よいせっと言いながら、トリコはデビル大蛇を解体するとその背に背負った。相変わらず食い意地の悪い奴だとげんなりした表情のココを眺めながら、小松が苦笑した時だったろうか。
「にゃあ!?」
「……小松君っ!?」
小松の体を、何かが攫う。その小さな体はあっという間に闇に呑まれて消えた。
「くそっ、こんな時に……!」
「ことごとく運がわりぃな、今日はよ!」
ココとトリコは構わず、小松の後を追って暗い穴の中へと飛び込んだ。
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