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苦手な方はご注意下さい。
予約記事を使って遊んでみました。
朝の6時
昼の12時
夜の6時
バレンタイン当日 朝の6時
に投稿されるよう設定してあります。
ココマと子供達の時間に沿うようにね!!
【幸せのガトーショコラ】
「もー、昨日あれだけ言ったのに!」
「子供達の前じゃ駄目なんだから、そしたらあのタイミングしかないだろう?」
良くないですー! 寝室から出てきた両親の姿を見て、子供達は二人で顔を見合わせて微笑んだ。頬を赤らめて怒っているフリをした母親と、困ったように、けれど幸せそうな顔をしている父親。
いつもの光景だけれど、二人はそんな両親達を見ているのが実は結構好きだった。
「またいちゃついてる」
「いちゃ……?! いちゃついてない!」
シエルの言葉に、母親は反論する。にやにやと笑う息子に気付くと、小松は息を吐いてからかった子供の頭を優しく叩いた。
「いてっ!」
「親をからかうもんじゃないの!」
ご飯抜くよ? と、言うとへにょりと眉を下げたシエルが唇を尖らせた。
「母さん、それはずるいよ」
「折角頑張ったのに、シエルは晩御飯が食べられないのか~、可哀想に。そうだ、トリコさんに来て貰おうか」
「ごめんなさい」
わかればよろしい。小松はそんなことを言って、エプロンを掛けた。
「昨日の夜から随分と頑張っていたものね」
きゅっと背中で小松がエプロンの紐を縛った辺りで、ココが笑みを浮かべながらお湯を沸かし始める。どうやら、お茶を淹れてくれるらしい。
「下準備が大事なのはわかるけど、あまり無理はしないようにね」
「もうっ! パパ、本当に鈍いのね!」
小松がココの言葉に苦笑を浮かべると同時に、今まで黙っていたルーチェが耐えかねたように声をあげた。ココが声のした方向に視線を向けて、首を傾げる。
「今日が何の日か、本当に気付いていないの?」
仁王立ちでココを見上げるルーチェの剣幕に、ココは益々首を傾げるばかりだ。小松が小さく肩を震わせて笑いを堪えているのが見える。
「今日?」
ココはカレンダーを見た。2月14日。例年であれば小松はこの月は前半殆ど仕事で、休めない。今年だってそうだった。だって理由が……――。
「あ」
ココの声に、ルーチェが笑った。
「わかった?」
ルーチェは後ろ手に隠し持っていたそれを、ココの前に差し出した。赤いハートの箱に、ココは目を見開く。
「はい、これ、ハッピーバレンタイン。私の手作りだけど、味はママのお墨付きだよ!」
どこか仏頂面ではあるけれど、それはただの照れ隠しだろう。ココは差し出された箱を手を伸ばして受け取る。そうか、最近浮き足立っていたのも、昨日リンちゃんの家にいったのも、全部これのためだったのか。と、ココはようやくそこで理解する。
「……パパ?」
ルーチェが不安そうにココを見上げる。例年では、小松とルーチェが作った晩御飯に舌鼓を打つのが当然のことになっていたために、まさかチョコを貰えるとは思ってもみなかった。
ココはなんと言葉にしたらいいのか、わからない。嬉しさと感動が一気に押し寄せてきて、胸が詰まりそうだった。
「……ありがとう。大事に、食べるよ」
ココはルーチェを抱き寄せて、そっとその額にキスをした。照れたように頬を染めながらも、ルーチェは嬉しそうにはにかんでみせる。
「大好きよ、パパとママが世界で一番!」
「僕も、ママの次に二人が好きだよ」
「あー、出たよ。また父さんの惚気」
「……コ、ココさん!」
シエルが呆れたように笑いながら椅子に座っている横で、油断していたらしい小松の顔から湯気が上がる。ココは笑うと、そっとルーチェを解放した。
「そんなこと、言われなくてもわかってるもの。あ、シエルにもあるよ!」
ココの元から離れ、ルーチェはもう一つの箱を隠していたらしい棚から取り出してくる。
「父さんのより小さい……」
「文句言わないの! 失敗しちゃったんだから仕方ないじゃない」
失敗?! その箱を巡る兄妹の問答を微笑ましく見ながら、ココは椅子に座って箱を丁寧に開いてみた。そこにあったものを見て、ココは更に瞳を見開く。
思わずと言った風に傍らに来ていた小松を見たココに、小松が成功したとばかりに微笑んだ。
「……これ」
「僕がココさんに初めてあげたガトーショコラより、美味しいと思いますよ」
兄妹には聞こえないように、ココの耳元で小松が囁く。
「……全く、やってくれるね」
泣きそうになったよ。密かに囁いた言葉に、小松が益々笑みを深めた。
確かにココの目元が赤い。小松はちらりと子供達を見てから、そっとココの目元に口付ける。
「小松君?」
「今日だけ、トクベツです」
小松の言葉に、ココは破顔した。
「どうせなら、唇に欲しかった所だけど」
「……っ、もう、我侭ですよ」
ケーキを机の上に置いて、ココは小松の腰を引き寄せる。鼻を擦り合わせると、間近にある小松の視線が困ったように揺れる。
「自分に正直なの」
「……結婚してから、随分と正直になりましたよね」
唇があと少しで触れ合いそうな距離で囁きあう。
「こんな僕はいや? 結婚する前の僕のが良かったかな?」
「どちらでも。ココさんがココさんであるなら、それでいいです」
甘いね。と、言えば、ココさんには負けます。そんな言葉が返される。
ココは笑って、そっと唇を重ね合わせた。
いつの間にか騒いでいた兄妹が静かに二人を見守っていたことを知りながら。
そしてまた冒頭みたいなやり取りが始まるバレンタイン。