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【母娘水入らず】
「今頃パパ、落ち込んでるかもね~」
「ココはいっつも悪い方に考えるクセがあるから、きっとそうだし」
僕はリンさんとルーの背中を見ながら、その噂の中心人物のことを思い出してくすりと笑う。
「いっつもうじうじうじうじ、悩みすぎなのよっ! もっとしゃきっとしてればいいのに! だってちょっと考えたらわかるでしょ?! バレンタインだって! 毎年あげてるのに!」
がつんと音を立てて、ルーがチョコを混ぜる手をやや乱暴にかき混ぜる。
「乱暴にしちゃ駄目だよ、食材に罪はないでしょ?」
はーい。ルーはそう言って、手付きをまた柔らかいものへと戻した。僕はルーのボウルに、溶かしたバターを混ぜ込む。
「ココさんはイベントごとには疎いから……シエルは気付いていたみたいだけど」
「シエルは知ってても、パパには言わないと思うよ」
僕はルーの言葉に頷く。でも、ルーがどうしてここ最近浮き足立っていたのかを知らないのは、多分、ココさんくらいのものだろう。
それからルーの言う通り、シエルはルーが悲しむようなことはしない筈だ。あのフェミニスト振りはココさん似だろうなあ。そんな考え事をしながら、僕は後ろからリンさんの手元を覗き込む。
「リンさん、そこはもっと切るように」
「な、なかなか難しいし……」
「ふふ、でも上手に出来てますよ」
ほんと? と、嬉しそうに言う姿はまさしく女の子だ。僕は頷いてやりながら、二人の作業工程を見守る。
「そういえば、ママは作らないの? パパに」
「あぁ、僕は明日の晩御飯がバレンタイン。下準備は今日の夜に、ね」
なるほど。ルーが納得したように頷いた。
「いちゃつくのは程々にしてね」
その言葉に、まずリンさんが噴出した。僕はその言葉に、ぼっと顔を染める。
「ココ、小松さんにはめっちゃ甘いし。ちょっと目に浮かぶかも」
「もうやになっちゃうくらい毎日毎日いってらっしゃいのチューしてるし。新婚みたい」
「ルー!」
僕の声に、ルーがぺろりと舌を出した。リンさんが肩を震わせて笑っている。
全くもう! 帰ったらちょっとココさんと相談しなきゃ。
僕はぐるぐると掻き混ぜられるチョコを見ながら、そんなようなことを心に決めた。