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【何年経っても愛してる】
「いつかルーチェにも好きな男の子が出来て、チョコをあげることになるのかな」
子供達が眠りについた夜。そんな風にぽつりと呟いた隣に座る夫を、小松は見上げて苦笑を浮かべた。
「そりゃぁルーチェも女の子ですから。いつかはそうなりますよ。案外、あっという間にお嫁にいっちゃうかも」
ルー、ココさんに似て美人だから。
小松の言葉に、ココは机の上に置かれたルーチェから今朝渡されたバレンタインのケーキが入っていたケーキを突いた。やがてすぐに机に突っ伏したココの頭を、小松は優しくそっと撫でた。
「…………あまり考えたくないな」
まだまだずっと先のことだと、ココはそう思っていた。けれど、意外と年月なんてあっという間なのかもしれないな。ともココは最近、思うようになっていた。それくらい、時が進むのが早い。
そんなココを見ていた小松が、小さく笑う声がする。不貞腐れたように見ると、小松は優しく笑ってココの髪の毛を撫でていた手を頬に移動させていった。
「ココさん、僕、幸せですよ」
小松の唐突な言葉に、ココはその真意を量ろうと小松の目を覗き込む。澄んだ綺麗な瞳が、今はココだけを優しく見つめていた。
「可愛い子供達がいて、ココさんがいて。僕にとって、今の生活はとても幸せで、かけがえのないものなんです」
「小松君……」
ココは伏せていた顔をあげて、頬を撫でていた小松の手を取る。少し冷えるこんな夜だからか、小松の手は少し冷たい。それを温めるように、ココは両手で小松の小さな手を包み込んだ。
「だから、ルーチェやシエルにも、素敵な人と一緒になることの喜びと、幸せを知ってほしいと思うんです」
小松は静かに、ココへと言葉を紡ぐ。それを聞く度に、ココは胸が締め付けられるような気がした。
こんなに想われて、言葉にして貰えて、手を取って、笑い合って、温もりを分け合って。
「ココさんに好きになって貰えて知った喜びも、ココさんを好きになって知った幸せも…そういう気持ちを、シエルとルーにもいつか知って貰いたいんです」
こんなに、幸せでいいのだろうか。こんなに想われていいのだろうか。そう思いたくなるほどに、ココの胸を幸福が包み込む。それからほんの少しの、切なさ。
「十年後かもしれないし、二十年後かもしれない。それでも、あの子達が自分の幸せをそこに見つけられたのなら、僕はいつでも笑って、見送ろうって決めてるんです」
それが、あの子達の決めたことならば。
ココも同じように想像してみた。子供達がこの家から、いなくなることを。
それは結構、寂しい。
「……僕、泣いてしまうかも」
特に、ルーチェの時は。
照れたように、恥ずかしそうに視線を逸らしたココの言葉に、小松が小さく笑い声をあげた。ムッとして小松を見下ろすと、唇に柔らかい感触がした。
「ココさんがこんなに涙もろいなんて、知りませんでしたよ」
結婚するまでは。
小松の言葉に、ココは視線を逸らして、照れ隠しするように小松の額に口付けた。
「僕だって、こんな自分、知らなかった。君の影響かな」
「僕のせいにするんですか?」
くすくすと笑う小松の顔に、ココは肯定も否定もせずに口付け続ける。くすぐったそうに身を捩る小松に目を細めて、ココは小松の額と己の額を重ね合わせた。
「……十年後、二十年後、か」
ココの言葉に、小松は不思議そうにココを見上げる。その顔は、自分の言った意味も、ココが改めて口にした言葉の重みも、これっぽっちも気にしていない風だった。
「その頃、僕らはどうなってるだろうね」
「あー……」
小松は間延びしたような声をあげる。ココの占いの力をもってしても、流石にそんなに先の話はわからないし、わかったとしてもきっと変わってしまう未来だろう。
もしかしたら小松君に愛想尽かされてるかも。と、そんなネガティブな感情に支配されて、ココは勝手に項垂れる。
そんなココの姿に、小松は笑ってココの背中を叩いてやった。
「……ココさんはきっと、凄く色っぽくなってて、益々女の人が放っておかなさそうです」
「興味のない女性に好かれても、ね。君に好かれないと、僕には意味がないよ」
項垂れたココの言葉に、小松はココの体に腕を回して、そこに抱きついてみた。すぐに背中に回された大きな手に安堵して、小松はココの胸にぐりぐりと頭を押しつけながら、密かに笑う。
「十年後、二十年後、その先も、ずっとずっと、一緒にいて下さいね」
小松の言葉に、ココがふと顔をあげる。目が合うと、にこりと微笑まれた。ココも反射的に笑いながらも、小松の言葉を貰ってじわじわと喜びに染められていく胸の内に、苦笑する。
小松の言葉でここまで左右されるそんな単純な自分を知ったのも、小松と結婚してからだった。
「生涯、愛し続けると、誓います」
まるで結婚した時の誓いのように、ココは小松の手の甲に口付けて応えた。
小松の手が、ココの手に触れる。同じようにそこに口付けた小松は、ココと目を合わせると柔らかく、嬉しそうに笑った。
「僕も、ココさんだけを生涯、愛し続けます」
そんな甘い言葉が可愛らしい唇から吐き出される。
ココは笑って、今度は誓いの口付けを交わすために、そっと小松の顎を持ち上げるのだった。
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