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十二国記パロです。

※原作忠実パロではありません

※設定色々捏造中です。

苦手な方はご覧にならないようにして下さい。

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 いつしか季節は移ろい変わり、春が終わり、夏を迎えていた。
 そしてついに、彼の恐れていたその時がやってきてしまった。
 我こそは王だと思う人々が、彼の元へと向かってくる日だ。この日のために、王たる資格があるかの選定を受けるべく、対象国の者達が一ヶ月以上もの過酷な道程を越えて、蓬山を昇ってくるのだという話を、彼は聞いた。
 戸惑っている彼に、女仙達が苦笑をしながら告げてくる。
「王気が見えなければ、"中日までご無事で"と仰って下さいまし」
  緊張する彼の肩を撫でながら、女仙の一人がそう言ったものの、そもそも彼にはその王気がわからない。どうやって選べばいいのか、見当もつかなかった。
 簡単な折伏の仕方はメルクが知っていたものの、メルクが折伏出来るわけではない。王気については、彼女すらわからないと首を振る。これは多分、感覚の問題なのだろうとメルクも首を傾げて、困ったように呟いた。
 やっぱりぼくは、出来損ないの麒麟なんですよ。そう言って項垂れた彼に、どこか困ったような表情で、それでも必死に慰めてくれようとしていたメルクの優しさを思い出す。彼女は今、泰麒の影の中にじっと身を潜めている。姿は見えなくとも、気配だけはわかる。見守ってくれている彼女の存在にじわりと温かくなった胸を握り締め、彼は開かれていく扉を凝視した。
 扉の向こうには、様々な人がいた。夏の熱気と眩しさに瞳を細めながら辺りを見回すと、その場にいた全ての人が叩頭していた。思わずたじろいで女仙の衣服を掴むと、肩に置かれた手がずいと前へと進むよう促してくる。
「さ、参りましょう」
 女仙に連れられて向かった先は、グルメ宮と呼ばれる離宮だった。中は天井が高く、大きな広間があり、正面に祭壇がある。
 祭壇の上に座ると、御簾が下ろされた。どうやら、昇山者の人々とは、御簾越しに対面することになるらしい。
 準備が一通り済むと、「始めよ」という声と共に、先程通ってきた扉が重厚そうな音を立てて開かれた。やってきた男は恐る恐るといった風に叩頭すると、何やら彼に一生懸命話しかけ始める。
「…………泰麒、王気は?」
 傍に控えていた女仙が、一人目の話にうんざりしたような顔で彼へと問いかけた。わからない。それならば違うのだろうかと、彼は首を振った。
「……中日まで、御無事で」
 途端、それまでつらつらと喋っていた男の言葉が止まり、落胆したかと思えば深く叩頭して外へと戻っていった。何人もがそうして王気を確かめにきたけれど、彼にはてんでその王気がわからない。
 もしかしたら見落としているかもしれない。そんな不安は、時間が経てば経つ程膨らんでいった。
「次は……――」
 幾人もの人々が訪れた。その度に向けられる期待の眼差しを裏切ることは、彼にとってとても心苦しいことだった。それでも、それが自分の使命ならばと幾度もそれを繰り返す。しかし、流石に朝から昼までずっと休みなしで続くと、飽きてしまうのも事実だった。
「……あの、ちょっと外の空気を吸ってきても?」
「勿論ですとも」
 にっこりと笑った女仙達は、二つ返事で快諾してくれた。彼はほっと胸を撫で下ろすと、椅子から立ち上がる。座りすぎて腰が痛い。大丈夫かと小さく聞いてくるメルクに頷いて、先導してくれる女仙の後について彼は外に出た。
 扉が開かれると忘れていた夏の熱い日差しと明るさに、視界を一瞬だけ奪われる。
 どっと人が押し寄せてくるかと思いきや意外なことにそんなことはなく、女仙達が不思議そうに顔を見合わせたのが気配でわかった。
 そして、その理由はすぐにわかった。明らかに不審な人だかりがそこに出来ていた。皆が皆、固唾を飲み込んでその成り行きを見守っているようだった。
「何の騒ぎでしょう?」
 彼が指を指すと、それを見た女仙の眉根に深い皺が寄った。
「ほんに血の気の多い国だこと!」
 うんざりしたように呟いて、彼らはそこにやや急ぎ足で駆けつける。女仙に気付いた人々が道を譲った。人垣が割れると、その先にいたのは二人の男だった。
 一人は剣を振り回し、顔を赤らめて明らかに怒っている大男だった。気になったのは、もう一方の男の方だ。
 まず目についたのは髪の毛だった。髪はまるで青空を映したかのような色をしている。それから大男にも負けないくらいの長身で、体躯も良い。明らかに一般人とは違うのが一目でわかった。
 大男とは違い、その男は口元を緩めて余裕そうな笑みを浮かべている。腰にかけた剣に手はかけているようだが、抜刀はしていない。
 人目を引くといえばいいのか、その青色から目が離せなかった。キラキラと輝いてさえ見えるその髪の毛は、触ったら冷たいのだろうか。そう思っていると、ちらりと視線がかちあった。
「トリコッ!」 
誰かの声が、しんと静まっていた辺りを切り裂くように駆け抜けた。男の視線はすぐに彼から逸らされ、その声の主へと向けられたようだ。何事かをその主へと向けて告げ、片手をあげて応えている。
「……ッ!」
 その視線の先にいた男を見た瞬間、彼の中に駆け抜けた電流のような何か。それを何か確かめる前に、大男が剣を振り回しながら男へと詰め寄った。
――……危ないッ! 
トリコと呼ばれた男は一切その大男に意識を向けていない。卑怯だ。と、思う間もなく大男の剣が男へと振り下ろされた。
 それは、一瞬の出来事だったと言っていいだろう。剣を掻い潜ったトリコの拳が、大男の腹にのめり込む。一見優勢かと思えていた大男の体はぐらりとよろけ、呆気なく地面へと沈んでいった。
「……蓬山公の手前だから、剣は抜かねぇ。これで済んだことに、感謝すんだな」
 くっと口端を歪めたトリコが振り返る間もなく、ばちん、と音が響いた。
「ってぇ! っにすんだよ、ココ!」
「うるさい! あれ程ここで問題を起こすなと言っただろうが! お前は僕の待てすら聞き入れられないのか!?」
 トリコと呼ばれた男よりも少し背が低い、もう一人のココと呼ばれた男がトリコの頭をはたいたようだ。二人とも体ががっしりとしていている。
 トリコを詰る男は黒髪で、一見少し細身のように見えるが、それでもその衣服の下にはしっかりと筋肉がついているのが見て取れる。涼しげな目元と、女性受けしそうな優しげな顔が、今は怒りからか呆れからか、怒ったような表情でトリコに叱責の言葉を浴びせている。
 トリコはココの言葉に、気まずそうにその青い髪を掻いて見せた。
「しょうがねえだろ、喧嘩吹っかけてきたのはあっちだぜ!」 
 その言葉を最後に、一瞬だけ辺りがしんと静まり返る。その沈黙を破ったのは他でもない、ココの方だった。
「……トリコ、僕との約束、覚えてるよな?」
 眉間に皺を寄せていた男がにこりと微笑んだ。それだけでその場にいた数名の女性が、顔を赤らめる。顔を青褪めさせたのは、トリコのみだ。
「ちょっ、待てよココ! そりゃねえだろ?」
「知るかっ! 約束を破ったのはお前だからな、約束通りお前の飯から、暫く肉を抜くぞ!」
「ひっでえ!俺の楽しみを奪う気がよ!?」
「自業自得だ」
 ココと呼ばれた男は冷たくそれだけを言い放つと、呆然としている彼へと目を向けた。怜悧な視線は真っ直ぐに、「蓬山公」へと向けられている。そのまま近付いてくる男の覇気のようなものに、彼は思わず後退りをしてしまった。
「連れが無作法をいたして申し訳ないことをした」
 見た目通り物腰も柔らかい男のようだ。それに悪い印象は持てない。逃げ出そうとする足をなんとか踏みとどまらせていると、男が目の前で膝をついた。
「蓬山で争い事はお控えなさいませ」
 黙ったままの彼の代わりに、傍に控えていた女仙が忠告する。男は苦笑を浮かべて謝罪の言葉を口にすると、彼へと視線を向けて目許を和らげた。
 それで幾許か緊張が解ける。女仙の手が彼を前へと押し出そうとはしていたけれど、彼は何故かそれ以上前に進む事は出来なかった。
 真っ直ぐに向けられる男の視線を、直視することはできない。どきどきと心臓が煩くて、落ち着かない。
「……すっかり怯えさせてしまったみたいだね。お詫びを申し上げる」
 男が膝をつき、頭を垂れて言葉を紡ぐ。彼は首を振るので精一杯だった。足が竦んで、声すら上手く出そうにはない。それでも、いつまでも黙っているわけにはいかないと彼は口を開く。
「………少し、」
 声が震えた。男の瞳が僅かに細められる。
「少し、驚いただけです。あの、えっと……どちらからいらしたんですか?」
「僕……私は、鴻基から参りました。戴国禁軍のココと申します」 
まわりがどよめいた。凄い人なのだろうかと思ったけれど、冷静にモノを考えられない頭は一杯一杯で、そこまで気をやる余裕はなかった。
「同じく、トリコだ」
 いつの間にかココの横に来ていたトリコが、ココと同じように頭を垂れた。
 その背後で、ココの手がトリコをはたいたのがまた見える。
「ってぇ!」
「蓬山公の手前だ、礼をわきまえろ」
 そのやり取りがおかしくて、彼は小さく笑みを浮かべる。その笑い声に、二人の視線が彼に向けられた。
「あ、ごめんなさい……」
 泰麒が謝ると、男二人は朗らかに笑う。
「何を謝る必要がおありだろう? 蓬山公に叱責されずに済んで、ほっとしている所です」
「ははっ、ちが……ってぇ?!」
「お前は暫く口を慎め」
 低い声でトリコを制す男に、彼も苦笑を浮かべる。向けられた視線に、知らずまたどきりと胸が跳ねた。
 体が竦む。何故だろう、その目が怖かった。優しそうな雰囲気を漂わせているというのに、何故怖いのか。体が竦むこの感覚は、今まで感じたことがない。立ち去りたいのに、立ち去りたくない。
 彼を射抜く視線は驚く程真っ直ぐで、澄んでいる。その瞳が何を求めているのかを感じて、彼は小さく息を吸い込んだ。
「……ッ、中日まで、ご無事で」
 よくわからない感情が複雑に絡み合う中、彼は全ての感情を振り払うようにその場を後にした。
 女仙達の声が遥か遠くに聞こえたけれど、今の彼にはそんなことに構う余裕さえなくなっていた。




設定かえたらやばい楽しい

禁軍左軍 ココ
禁軍右軍 トリコ
ココさんはトリコさんの上司みたいなもん

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