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続きに死ネタをのっけておきます。
いずれ加筆してサイトにupしますけども!

苦手な方はスルー推奨

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 料理人らしい指先が、慣れたようにボタンを押していく。僕はそれを、彼から少し離れた場所で見守っていた。
「お元気ですか?」
 その会話は、いつもそんな他愛のないやり取りから始まっていた。
 僕はひょこひょこと歩く小松君に付き添って、病院のロビーへときている。小松君は、少し前から体調を崩してずっと入院していた。
小松君が入院している原因は、知らない。
「僕です、お元気ですか?」
 今日も今日とて、小松君は電話を掛ける。
 いつからだったろう。入院してから間もなくして、いつの間にか小松君についていた習慣。
 小松君は毎日、必ずどこかへと電話を掛けている。トリコもサニーもゼブラも、誰も小松君がどこの誰へと電話をしているのか、知らなかった。それでも小松君は少し切なさそうな表情で、いつも誰かへと電話を掛けている。
 相手はいつも留守のようで、小松君の声を聞くものは僕くらいのものだ。
 微かに聞こえてくる声はおかしそうに日常のことを話し出す。病院食がまずいだの、はやく元気になってハントに行きたいだの、そんなような内容だ。
 彼女がいたのだろうか。僕は病院の硬い椅子に座りながら、幾度となく浮かび上がった疑問を再び頭に思い浮かべた。そんな気配なんてしなかったのに、僕はどうやら告白する前に振られてしまったようだった。

そう、僕は小松君が好きだった。

 小さな背中を見つめながら、僕は深く溜息を吐き出す。
「この電話も、もう何度したかわかりませんけど」
 はは、と乾いた声が聞こえた。いつも明るい小松君が見せる、ほんの少しの翳り。僕らには隠すそれを、その電話の先にいる人物には見せている。
 そう思うと、緩い嫉妬の炎が胸を苛む。本来であれば彼の健康を願い、彼の幸せを願わなければいけない。友人として。それはいつしか、彼の姿を見るたびに、彼の声を聞くたびに、段々と難しいものへと変わって行った。
「また電話します」
 いつもと同じ言葉で通話を終了した小松君が受話器を追いた。いつもと同じ、そこで溜息。
 一度切なさそうに電話を見つめて、それから振り返った小松君は僕と目が合うとにこりとどこか寂しそうに笑った。
「お待たせしてすみません。終わりました」
「また、留守電?」
「そうみたいです。忙しい人なので」
 そう言って笑った小松君に、僕もなんとか微笑み返す。寂しそうな横顔に、僕は思わず出掛かった言葉を飲み込んだ。
 そんな子なんかいっそやめて、僕にしなよ。
 だって僕なら傍にいられる。僕なら、君の行きたい所へ、好きなだけ連れて行ってあげることができる。ハントだってなんだって、僕は君の願いならどんなことだって叶えてあげる。
 だから、僕にしなよ。
 そんな言葉を、吐き出すことなど出来よう筈もない。
「ココさん?」
「あぁ、なんでもないよ」
 見上げてきた顔に笑って、僕は小松君と連れたって長くどこか不穏な気配が漂う廊下を歩き出す。
 小松君はゆっくりと歩みを進める。それでも多分、彼にとっての全速力なんだろう。僕は歩くスペースを小松君に合わせながら歩いた。
「ごめんなさい、僕がもっとしゃきっと歩ければいいんですけど」
「あまり無理しちゃ駄目だよ。君のペースで、ゆっくり行こう」
 小松君は申し訳なさそうに笑って、僕が差し伸べた手に手を重ねた。いつも温かかった手は、今では僕よりも大分低い体温になってしまっている。
「ありがとうございます」
 弱々しい声に、僕は小松君にばれないように密かに眉間に皺を寄せた。部屋につく頃には、小松君の息はもう大分辛そうな程にあがっている。僕は小松君の体を支えてやりながら、その体をベッドへと横たわらせる。
「はは、おじいちゃんみたいですね」
「僕より若い癖に、何言ってるの」
 小松君は僕の言葉に、やんわりと笑う。それから会話はなくなった。小松君にとって、ロビーからこの部屋までの往復は結構きついものがあるらしかった。それ程までに弱ってしまっているのかと、僕は寝台の上で荒い息を吐き出す小松君を見て、胸を痛める。
「……僕が死んだら」
「小松君」
 不穏なその言葉を、僕は首を振って遮った。時たま小松君が口にするその呪いのような言葉は、僕らをひやりとさせるには十二分すぎた。
 小松君は僕の姿に、苦笑を浮かべる。ベッドの横にある引き出しから、小松君がちゃりと音を立てて何かを取り出した。
「僕が死んだら」
「そんなこと言うものじゃない」
「聞いて下さい」
 小松君の手が、ベッドのシーツの上で握り拳を作っていた僕の手に触れる。
「僕が死んだら、これを頼みます」
 小松君の手が僕の手を開く。僕の手の上に乗せられたのは、小さな小さな、彼の家の鍵だった。
「不吉なことを言わないでよ」
「勿論、もしものためですよ」
 朗らかに笑った小松君の顔に過ぎった一瞬の色を、僕は見落とすフリをするわけにはいかなかった。
「……ココさん?」
「いかないで」
 小さな体を抱き締める。ぎゅうぎゅうと抱けば、小松君の手がまるで赤子を諭すかのように僕の背中を叩く。
「そんなこと言わないで、僕の傍にいてよ」
「ココ、さん」
 懇願するように小松君に告げる。小松君を抱く腕も、体も、声さえも、もう全身が震えたまま止まらない。どんなハントよりも、どんな強敵よりも、僕にとって恐ろしいものがゆっくりと僕らに忍び寄ってくる気配を、僕はただ見ているだけしかできない。
「大丈夫ですよ、元気になりますから! そしたら、またハントに行きましょう?」
 皆で! そう言って元気なフリをして笑った小松君の顔に、僕も笑った。
「そうだね」
 嘘だ。
 そう言いたかったのに、君の強がりに僕は付き合うことを選んでしまった。
 震えた体に触れた小さな、温かくて強い、魔法のような手。僕はそれに頬を当てて、静かに零れ落ちた涙もそのままに、君の温もりを感じていた。

 それが君の最後の、優しい嘘になるとも知らずに。





本多孝好さんの MOMENT という連作短編小説に入っている話の中の一つ、フェアリーだったかな。
そのお話、全体的に大好きなんですが、ココマで想像したら切なくなりまくったので投下。
Wパロってやつです。
後でまた加えてサイトに載せますね。
こ、小松君……!!

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