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拍手ありがとうございますー!
学パロもがんばります。

そんなこんなで学パロ2話目。
気付いたら小松君にほだされかけてしまうココさんまじココさん。

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 トリコからメールがきたのは、丁度午後の授業が終わった辺りだ。メールには「放課後 調理室」としか書かれていない。
 どうやらまだ僕が彼の料理を食べたいと思っているらしい。僕が「食べるつもりはない」と、メールを送り返したにも関わらず、その後返信は来なかった。
「全くあいつときたら……」
 僕は恨みごとを呟きながら、仕方なしに調理室へと向かう。ここは一度はっきりと、言ってやらねばなるまい。誰かの手料理なんて欲しいと思わない。一度受け取るときりがなくなってしまうから、嫌なのだと。
 調理室の前に来ると、やはりそこからは人の気配がした。僕は特にノックをすることもなく、がらりと扉を開ける。
 まず僕の位置から見えたのは、小さな彼の背中だ。楽しそうに何かを覗いている彼の姿がそこにあった。
「よし、もうすぐ完成かな!」
 彼はオーブンの中を見ては、落ち着きなくそわそわとしている。どうやら、僕が調理室に入ってきたことに気付いていないらしい。何かを作ることに一生懸命のようだ。
 部屋には少し甘い香りが漂っているから、何かのお菓子なのかもしれない。
 はて、声を掛けるべきかどうか。僕は迷う。見た所トリコはいないようだし、そのまま帰っても良いように思える。いや、でも。
「よし、出来たー! これくらいあれば大丈夫かな、うん! って、あれ?」
 彼はオーブンから何かを取り出し、大切そうに机の上に置く。あ、しまった。と、思ったのはその時だ。オーブンを向いていたせいで僕に背中を向けていた彼が、こちらを向いたのだ。当然、今まで気付かなかった彼も、必然的に僕に気がつくことになる。
「ココさん!」
「……やあ」
 まさか無視して出ていくわけにもいかない。僕は片手をあげて、しぶしぶ小松君の元へと向かう。
「どうしたんですか? 何かご用でも?」
「いや、トリコに放課後ここに来いって言われたんだけど……」
 あぁ。と、小松君は声をあげて、次には苦笑を浮かべる。
「トリコさん、そういえばどうしたんだろう?」
 聞けば、いつもならすぐに腹減ったと言いながらくるらしい。僕はそこまで聞いて、なんとなく察しがついた。
「……あいつめ。多分、早弁か何かで今怒られてるんじゃないかな」
「あぁ! そういえば、放課後にスタージュン先生に引き摺られていくのを見ました」
 選択教室で何かあったらしいことは聞いたと、そう言う小松君に、僕は頷いた。多分、十中八九僕の想像通りだろう。
 僕は額に手を置いた。つまり、あのメールは僕に何かを食べさせようというわけではなく、彼がここで一人でお菓子を作っているから、僕にそのことを伝えろと言う意味なのか。それにしても言葉が足りなさすぎる。
 はぁ。と、盛大に溜息を吐く僕の前で、小松君が急にあわあわとし始めた。僕が怪訝そうに見ると、小松君はいそいそと準備してあった調理器具を取り出している。
「ココさんごめんなさい、ちょっと待って下さいね」
 先程出来上がったらしい丸いクッキーに、小松君は慌てたように粉砂糖を降り掛けた。その手は優しく、雪のように粉を降らせていく。
「よし、完成!」
 小松君は満足そうにそう言って、ふるいを置いた。見て見れば、似たようなものが乗った天板が他にもいくつか置いてある。
「これ、全部君が?」
「はい! トリコさんはいっぱい食べるから、今日はちょっと頑張ったんですけど……」
 来られないかなあ。と、小松君はそれを一つ取り上げて口に含む。「んー、おいしーっ!」と、嬉しそうな声をあげる辺り、作るだけではなくて食べることも好きなのだろうことがよくわかる。
「……あっ! ココさんも、いかがですか?」
 僕の視線に気付いた小松君は、はたと僕に天板ごとそれを差し出す。
「いや、僕は……」
 断ろうとすると、小松君が何かに気付いたようにクッキーの乗った天板を降ろす。それから少し寂しそうに、苦笑を浮かべた。
「すみません、ココさんはこういったものは受け取らないんでしたね。トリコさんから聞きました」
 困らせちゃってごめんない。と、小松君は頭を下げる。僕はその姿に、思わず目を見開いた。強引に渡したり、食べさせようとする人間は多かったが、こうやって頭を下げてきたのは小松君が初めてだ。
 小松君はそれから、大量に作ったそれを何に詰めようかと悩み始めていた。やはり、僕にクッキーを強要するつもりはないようだ。新鮮というか、凄く珍しいことなだけに、僕は拍子抜けてしまう。
「……えーと、あの、ココさん? もしかして何か良い案、あります?」
 その言葉に、僕ははたと意識を戻した。どうやら思わずじっと小松君を見つめてしまっていたらしい。小松君は少し照れたように頬を掻いて、小さく首を傾げた。
 そうか。これは彼の、優しさか。
 気を遣ってくれたのだとわかるその気持ちに、ほんのりと心が温かくなるような気がした。
「……グルメケース、ないの?」
「えっ……? あっ、あります!」
「トリコが来るまでの時間、借りるくらいなら何も言われないでしょ。心配なら、節乃先生に許可を貰えばいいんじゃないかな」
 そうですね! と、小松君はにっこりと嬉しそうに笑う。そそくさとグルメケースに詰めていく小松君を見つめ、僕はころころとしているそれを一つ、手に取ってみた。
「……ねえ、これ、貰って良い?」
「ええ、どうぞどうぞ。誰かにあげる分ですか? 味は保証しますよ、あ、少量ならそこの袋に」
 小松君はどんどんそのケースの中に作ったクッキーを入れていく。全く持って気がないようだ。
「ううん、ちょっと食べてみたくて」
「あぁ、それならどうぞ……って、え?」
 小松君の許可が貰えたことで、僕はそれを口に含んだ。さくさくとした感触が気持ち良い。それからクッキー生地の甘みがふわりと広がり、スイートベリーの仄かな酸味と甘みが口いっぱいに広がった。
「へえ、粉砂糖かと思ったら綿砂糖か」
 親指についたそれを舐めると、ふわふわとした甘みが口に広がっていく。でも、粉砂糖のように、口の中に残らない。すっと口の中に残ることなく、その甘みは引いて行く。そこそこ上質な綿砂糖だ。
「うわ、よくわかりましたね」
 凄いです。と、小松君が驚いたように僕を見つめている。
「この学校に通っていればこれくらいは当然だろう? 食のエリートが集まる学校なんだから」
「はは、そうかもしれませんね!」
 小松君はそう言って、どこか照れたように笑った。いつもトリコに注意されるが、僕の言葉は往々にして、少しトゲトゲしているらしい。毒を吐く、という言葉が、ここまで似合う奴もいないと、よく幼馴染には言われている。
 正直に打ち明ければ、僕は自分の癖はよく理解しているつもりだ。ただ、直す気がないだけ。それに、そこまでして人に関わりたいと思ったことも、今まで皆無だった。
「あの、でも、これ、僕の手作りクッキーだったんです、けど……」
 大丈夫ですか? と、小松君は僕に心配そうに問い掛けてくる。僕が自分で勝手に口にしたというのに、彼はまるで僕を騙してクッキーを食べさせたような、そんな反応だ。僕はその姿に、小さく声を立てて笑った。
「えっ? あの、ええっ?!」
「ふふ、いや、ごめん。君の反応が面白くて」
 僕はそう言って、クッキーをまた一つ摘む。
「別に人の作ったものが食べられないわけじゃないし、生理的に嫌だというものではないんだ」
 僕は手にしたそれをまた口の中に放り込む。優しい甘みが口に広がり、それからベリーの甘酸っぱさが口に広がった。どうやら甘さは少し控えめに作られているから、甘いものがそんなに得意じゃない僕にも、結構食べられそうな味だった。
「おいしいよ」
 おろおろとする小松君に、僕は微笑む。小松君の動きが、ぴたりと止まった。
「凄く美味しい」
「えっと……あの、ありがとう、ござい、ます?」
 困惑している小松君を余所に、僕はこれも貰って良いの? と、食べていく。小松君が慌てたように頷いて、こんなのもあります。とか言いながら、色々とお菓子を出してくれるものだから、すっかりご馳走になってしまった。
「どれも美味しかったよ」
「本当ですか! 良かったぁ! 何も仰らなかったので、もしもお口に合ってなかったらどうしようって思ってたんです!」
「君があれもこれもって、どんどん出してくるから、感想を言う暇がなかったんじゃない」
 あれ、そうでした? と、首を傾げた小松君に、僕はまたくすくすと笑った。思えばこんなに笑ったのも、随分と久しい。トリコといればしょっちゅう怒ることのが多いし、かといって学校では特に楽しいことなんてないし、人と絡むのだって極端に避けている。笑顔も浮かべはするけれど、そんなのは社交辞令的なものだ。心からのそれではない。
「うん、本当にどれも凄く美味しかったよ。最初のスイートベリー入りのクッキーも美味しかったし、試しにって作ったアップルコットとラム酒のクッキーもとても美味しかったしね」
 小松君は僕の言葉に、嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ、そう言って貰えて嬉しいです」
「トリコが君に夢中になるのも、よくわかる」
「ええ? そうですか?」
 うん。と、僕は頷いた。小松君は照れたように、頭を掻いて見せる。そんな仕草さえも彼の愛嬌の一つに見えてくるから、印象というものは大事だなとそんなことを考えた。
「良かったらまたいらして下さい。放課後は大体ここで何か作ってますから」
「……なるほど」
 あの食いしん坊ちゃんが嗅ぎつけるわけか。と、僕は妙に納得する。
 と、なると二人の出会いは大体想像がつていしまう。小松君が作っていた試作やら何やらのそれを、トリコが嗅ぎつけて食い尽くす。「これ、食っていいの!?」ってな具合に。多少細かい流れは違うかもしれないが、きっと大まかは流れはそんな感じに違いない。
「あああ、腹減ったぁ! 小松ゥ! 何かあるか……って、ココォ!?」
「遅かったな、トリコ。早弁の代償は、随分と大きかったみたいだな」
 くっくっと笑ってやれば、トリコが少しばつの悪そうな顔をする。
「うるせーよ! あの野郎ずーっとネチネチネチネチ説教しやがってよぉ、ったくぅ。ところで、小松!」
「はいはい、ここにありますよ」
 小松君はそう言って、トリコ用に取っておいたグルメケースを取り出した。トリコが嬉しそうに寄ってくる。そしてそのグルメケースを見て、トリコは何やら不思議そうに首を傾げた。
「あれ? いつもよく少なくね?」
「えーっと、それは……」
 小松君が少し困ったように苦笑を浮かべた。あぁ、そうか。と、僕はそんなトリコの姿に、にやりと笑う。
「悪いな、僕が食べちゃったよ」
「は!?」
 トリコが心底驚いたように僕を見つめる。僕は何気ない顔で、トリコが開けたグルメケースの中から綿砂糖の掛かったクッキーを一つ、横からつまみ食いする。
「あっ、てめっ!」
「うん、美味しい」
 トリコが悔しそうに僕を見るのを、僕はくつくつと笑いながらまたそこからクッキーを奪おうと手を伸ばす。
「ココッ! お前もう十分食ったんだろっ! くっそー、すぐ帰ると思ったのによぉ」
「残念だったね。クッキーは美味しく頂いたよ」
 アップルコットもね。と、言うと、小松君がしまったという顔をする。試作品のためにあまり数を作られていなかったそれは、もう全て僕の胃袋の中だ。
 匂いを嗅ぎ取ったらしいトリコが、そのことについてまた悔しそうに顔を顰めるのを、僕はしてやったりな気持ちで眺めるのだった。
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