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今現在 サイトの拍手お礼にある学パロ小説をちまちま書き始めてみることにしました。
先日のお弁当話なども組み込めたらいいなー。
ちまちま続けたいです。

ちなみに拍手は押さなくても続きのページから全て通して見られるようになっています。
宜しければ続きからどうぞーっ!



拍手




「今度転入してきた奴、料理の腕前すげーんだよ!」
 幼馴染のトリコが、興奮した面持ちでそう言った。食べられればなんでもいいと思っているような男だが、それでもこの男の舌は、肥えている。その男が褒めちぎる程なのだから、余程美味しいに違いない。
 でも、その話題にさしたる興味が僕に沸く筈もなく、僕はただBGMのようにそれを聞き流していた。
「ふうん…それはよかったな」
「なんだよ、ココ。小松の料理が食えないからって、拗ねるなよな」
「拗ねてなんかない。懲りてないお前に呆れてるだけだ」
 大きく溜息を吐けば、トリコが片眉をあげて僕を見る。小さい頃は僕の方が高かった身長も、今では追い抜かれてしまっている。窮屈そうな制服だって、トリコが入学したばかりの頃はそれでも幾分か余裕があった筈だった。
「あ? 何かあったっけか?」
「お前は……この前、一人の子から手作りのクッキーを貰ってバクバク食べてたじゃないか。あの後お前に女子が殺到して…」
「全部食ったから、問題ねえだろ」
 あくまで一人の子だけではない。と、トリコは意地が悪い笑みを浮かべた。
「今度は手作り弁当か? 呆れたな。毒が入ってても知らないぞ」
「っつか、何目くじら立ててんだよ、意味わかんねー。平気だって」
 僕はその根拠のない自信に顔を顰めた。
 帰り道、夕日が照らす丁字路で僕らは立ち止まる。トリコは鞄を肩に担ぎあげながら、僕の呆れたような視線を笑って受け流した。幼い頃からいつもそうだ。大丈夫だと言って笑うこの男の言葉は、あんまり信用してはいけない。
「…何が平気なんだ。結局、僕がいつも被害を被っていることをお前は理解しているのか?」
「いつ迷惑掛けたよ?」
「お前が僕宛のものも受け取ったのは知ってるぞ。その行方は知らないけど…数人から呼び出しされた」
 トリコが口笛を吹いた。僕はすかさずトリコの脛を思いっきり蹴りあげてやる。
「ッてえ!?」
「僕はああいったものは受け取らないと言った筈だよ? 受け取れば勘違いする輩が出て面倒臭いって、お前に何度も僕は言ったと思うけど…」
 にっこりと笑みを浮かべると、さっとトリコの顔色が変わる。
「わわわわ、悪かったって! 仕方ねえだろ、黙って机の上に置かれたら!」
「そういうものは本人にさっさと返すなりしろ、馬鹿!」
 更に蹴りあげる。大人しく蹴られているということは、トリコも思い当たる節があるのだろう。僕はそれを考えるだけで腸が煮え繰り返りそうだ。勘違いした女子というものほど、面倒臭いものはない。
「ちょ、マジでいてえよ! 大体、誰が置いていったのかもわかなかったっつーの!」
「その鼻はなんのためについているんだ?」
 下にばかり意識を取られていたトリコの鼻をぎゅっと抓みあげると、トリコが降参したように手をあげた。
「………悪かった」
「わかってるんだか…もういい、暫く僕はお前に勉強を教えないから、そのつもりでいるんだな」
 トリコの抗議をあげる声が背中にぶつかってくる。その抗議には、自業自得だと返してやった。

 ふと、トリコが先ほどまで夢中になって話していた女子の話を思い出す。
 その小松という女子のこと、随分と気に入ったんだなあ。と、少し意外に思いながら僕は帰り路へとついた。
 
 


「頼む! ココー!」
「……うるっさい。宿題をやらなかったのはお前の責任だ」
「そうだけどよぉ……あ! 昨日の小松の手料理、食えないからって怒ってんだろ! あいつに頼めば……」
「お前と一緒にするな」
 纏わりつくトリコをあしらいながら、僕は歩く速度を上げた。勿論、そんなことでトリコを振り払えるわけがないということもわかってはいたが、早く学校に着けばトリコだって諦めるだろう。
「別に僕に危害がなければ、お前が小松さんとどうなっても構わないよ」
 僕は肩を竦めて再び歩き出す。学校まではもうすぐそこだが、いつもの時間よりも少し遅い。絶対にトリコのせいだ。僕は時計を確認すると、再び歩く速度を速めた。
「早起きしたのに、残念だったな。僕はお前に勉強を教えるつもりはない」
「ココのケチー!」
「なんとでもいえ」
 ふんと歩くこと数分、トリコが「あっ!」と、声をあげる。僕はすぐ横で叫ばれたのもあって、眉間に皺を寄せて今度はなんだとジロリとトリコを睨む。
「そういや小松に会う約束してたんだった!」
「そうか、なら早く……って、おい?!」
 ちょうどいいからお前も来いよ! と、トリコが言うのと同時に僕の腕を掴んで走り出す。僕は別にいらないと言う暇すらない。
「トリコ、待て! 僕は別に……っ!」
「まあまあ良いじゃねえか! 皆で食った方がぜってーうめーし!」
 何を食べる気だ、何を。僕は眉間に皺を寄せる。
 そんな押し問答をしているうちに、僕はどんどんトリコに引っ張られるがままに目的の場所に来てしまった。トリコはこの学園の一年生、僕は三年生だ。当然教室だって階だって違う。
「おい、流石にここは……」
「小松ゥ!」
 僕のことなどほっぽりだし、トリコはさっさと教室に入ってしまう。
「あっ、おはようございます、トリコさんっ!」
 やけに丁寧な声が中から聞こえてくる。あぁ、例の女子……と、思うのと同時に、その声に僕はなんとなく違和感を覚えた。
「今日はココ連れてきたぜっ!」
「……はい?」
 ほら、入れよ。と、促されて、僕は暫くどうするか迷った。でも流石に今更ここでトリコと小松さんを無視して帰るわけにもいかなくないだろう。僕は溜息を吐いて、ゆっくりとその教室内へと足を踏み入れた。
「わっ?!」
「えっ?!」
 しぶしぶその中へと入り、僕はそこにいた二人を見つめて、目を見開いた。その相手も、驚いたようにそこに突っ立っていた。
「お、男……?」
「へっ?!」
 目の前にいた学ラン姿の小松と思われる人物が、驚愕のあまりに目を見開いて固まっている。その目は元から大きいのだろう、今にも零れ落ちるんじゃないかとハラハラした。
「ちょっ、トリコさんっ?! ココさんになんて説明したんですか?!」
「あぁ? 料理がすげー美味いやつ?」
 僕は頭を抱えた。
 あぁ、なるほど。と、数日前のトリコとのやり取りの時に起きた些細な違和感の正体がわかった。
 僕は早速その小松さん……いや、小松君と言い改めるべきなのだろう。その小松君の弁当をうきうきと開こうとしている男の背後に近付き、その足の甲をわざと踏んだ。
「いってぇぇええええ?!」
「あぁ、すまない。お前が足をそんな所に伸ばしていたとは知らなかった」
 いけしゃあしゃあと。そう言いたげな視線でトリコが見上げてくる。僕は少しだけその姿に満足しながら、踵を返した。
「えっ、あれ? あのっ!」
 その時、小松君が声をあげた。あぁ、しまった。そういえば彼に謝罪をしておかねば。と、僕は頭を下げた。
「ごめんね、トリコと行き違いがあったみたい」
「は、はぁ……僕が女の子に見えたわけじゃない、ですよね?」
 聞かれて、僕は苦笑する。流石にそれはない。
 そう伝えると、彼はほっとしたように屈託のない笑みを浮かべた。
「良かった! それならいいんですっ!」
 彼はそう言うと、ぱっとトリコに向かって行く。お弁当を全部食べるなとか、色々注意しているらしい。母親みたいだな。と、思うと同時に、変な子だな、と、思う。
 トリコを叱りつけるなんて子がこの学園にいるとは、少々意外だった。
「お前もここきてくえよ」
 もりもりと頬をハムスターのように膨らませて、トリコがもしゃもしゃと食べているのは小松君が作ってきてくれるというお弁当だろう。
 全く、品のない。
「僕はいいよ」
「ああ? なんでだよ、この前それで怒ったんだろ?」
「お前と一緒にするな」
 僕は盛大に溜息を吐くと、トリコ達に背を向けて歩き出す。
「あああっ、あのっ! いっぱい作ってきたので遠慮されているのなら、大丈夫、です、けどっ!」
 お腹空いているなら、いかがですか? そんな問いに、僕は振り返る。
 多分、勇気を出して声をあげてくれたのだろう。少し緊張したような小松君がそこにいた。
「……ありがとう。でも、朝ご飯を食べばかりでね。そんなに空いてないんだ」
 残念だけど、それはまた今度の機会に。
 僕は社交辞令的に、そう述べた。僕がそう言うと、彼は呆気なく「わかりました」と引き下がる。少し寂しそうな顔に微笑み返し、僕は二人に手を上げてから教室を出た。
 そもそも学校で朝ご飯というのはどういうことなのか。あの小松って子も大変だなあと、この時の僕はそんな感想しか抱かなかった。
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