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【衝動的な恋】
何考えてるかわかんない。
何度そう言われたか、俺だってわかんねえ。別に理解されようと思っちゃいねえし、美味い飯が食えりゃあそれでよかった。
女にだって不自由したことはねえし、俺から行かなくてもあっちからくることのがどちらかと言えば多いくらいだ。それこそ、男女問わず。
盛った雌猫。どいつもこいつも、甘ったるい声をあげて猫が擦り寄るように、俺にその体を押し付けてくる。化粧と香水の匂いには、もううんざりしていた。
「ねえトリコ! 最近全然ご無沙汰じゃない。私とちょっと遊ばない?」
今日も今日とて、町を歩けば下品な笑みを浮かべた女どもが俺に纏いつく。俺はやんわりとその体を引き離し、笑みを浮かべた。
「わりぃな、先約があんだよ。また今度な」
唇を尖らせながらも、女はそれ以上纏わりついてこなかった。分をわきまえている女はまだ良い。俺はその名前も知らない女に、後ろ手を振って別れた。
「相変わらずモテモテですね~」
人気のない待ち合わせ場所の公園の少し手前で、俺は聞き慣れた声を耳にする。どこで見ていたのか、小松がぼんやりと繁華街の入り口とも、出口ともつかない場所に立っていた。
「羨ましいか?」
「そりゃ僕はこんな顔ですからね。男としてはちょっと羨ましいですよ」
むっと不貞腐れる顔はとても同い年には見えない。
「紹介してやろうか?」
少し訪れた沈黙がなんだか嫌で、俺は思わずそんな言葉を口にしてしまっていた。途端、沸き起こる嫌悪感に俺は苦いものでも食っちまったように、眉間に深い皺を寄せる。
「はは、トリコさんがいいなら、お願いしようかな」
小松は俺に背中を向けて、公園に向けて歩き出す。俺が動かずにじっと見つめていると、数歩先で振り返った小松がいつものように笑った。
「なーんて! 結構ですよ。そういうのは、僕にはちょっと違う気がしますから」
自分でそういう人をいつか見つけられたらいいなー。と、小松は言う。胃がむかむかするような苛立ち。
今まで、少なくとも俺だけは俺のことをわかっているつもりだったが、小松といるとそれも随分とあやふやなものになる。
小松の隣に俺以外の奴が立つこと。そんなこと当たり前のことだと思う。小松はいつかいい嫁さんを見つけて、子供も作って……それが想像出来ないのは何故なのか。それを考えるだけで、吐き気すら催しそうなのは。
「……トリコさん?」
「嫌だ」
何がですか? 小松は公園の入り口に立って、首を傾げる。俺はまるでガキみてえに突っ立って、こぶしを握ることくらいしか出来なかった。
「トリコさん?」
その声に、金縛りが解けたように俺は動き出す。その小さな体に手を伸ばし抱き寄せると、胸の中の強張りが解けていくようだった。
「行くな、小松」
わけのわからない感情を、わけのわからないまま形にしたら、そんな言葉になった。意味がわかんねえ。いつも誰かに言われていた言葉を、まさか自身に投げ掛けるとは思わなかった。
「僕はどこにも行きませんよ」
小松の柔らかな声が耳に心地良く響く。この心地良さを知ってしまった。俺はもう、こいつのことを手放せはしないだろうと、俺の中の直感がそう告げていた。
「大丈夫ですよ、トリコさん」
ぽんぽんと背中を叩く小松の腕を取り、俺は小松の顔を見下ろす。瞳を優しく細める小松は今、何を思うのか。俺は胸から込み上げる何かを吐き出すように、その唇に唇を重ね合わせた。
ただわけのわからない衝動に突き動かされて。
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