×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
小松君を先にお風呂に行かせた後、僕は窮屈な上着を脱ぐ。そこでようやく、一心地つけたような気がした。
ベッド以外に特に何があるわけでもない、なんの変哲もないラブホだった。使ったことはなかったけれど、ある程度の知識としては僕だって持っている。
椅子もない部屋。休むのはどうやら、ベッドの上しかないようだ。僕は息を吐きながら、ぎしりと音を立ててベッドに座る。他に何もすることがない。そんな静かな部屋の中で小松君がシャワーを浴びている音を聞いていると、なんだか変な気分になりそうだった。
僕は気を紛らわせるために、仕方なしに部屋の中を順々に見回していく。
成程、部屋にはそういったプレイを楽しむための玩具が売られているし、ローションなんかも完備しているようだし、枕元には僅かばかりのスキンが置いてある。そういう行為をするのに、何も不足はないようだった。勿論、不足なぞあってはならないのだろうが。
「ふうん」
僕はテレビのリモコンを手に取ったけれど、まさかここでニュース番組が見られるわけもないだろうと、それをぽいと枕元に放り投げた。次にそこにあった操作パネルを見てみると、掠れた文字がいくつか並んでいる。そのうちのいくつかは予測がし易いものではあったけれど、一つ二つわからないものがあった。
「……鏡、ねえ」
大体こういう所は悪趣味なものを配備していることが多い。僕は興味本位で、そこをぽちりと押してみた。すると視界の端にあった壁が、瞬時に浴室の映像を映し出す。
「……っ?! 隠しカメラ……いや、マジックミラー、か」
僕は一瞬ひやりとしたその考えを置き、じっとそこを見つめた。小松君が体をごしごしと擦っている所だった。あぁ、そんなに擦っては傷がついてしまうよ。と、僕は眉間に皺を寄せる。勿論、声が届かないのも承知の上で。
いや、そんな場合じゃない。と、僕の中の冷静な僕が告げてくる。いやでも、もうちょっと、あとちょっとだけ。そんな考えにも支配された僕は、ごくりと生唾を飲み込んだ。
だって、夢にまで見た小松君の体なのだ。思いは結ばれることはないとは思うけれど、ちょっとくらい、そう、ちょっとくらいの夢は見たって良い筈だ。最も、確かにこれは今すぐにでもやめるべき行為だとは思うのだけど。
目が思わず、その体に釘付けになってしまう。筋肉質とも言えないけれど、別にぽっちゃりしているわけでもない体。それでいて、体つきはやっぱり男だ。当然ではあるとは思うけど。それから頭を洗う指先だって、料理人らしい指先だ。
いつも美味しい料理を作ってくれる手。初めて心から「美味しかったよ」と、小松君にそう言った時の、あの小松君の笑みが忘れられない。僕は多分、あの時君に惚れてしまったんだろうなあとそんなことを思う。
屈託なく笑う君のその姿に、誰にでも、何に対しても真摯に真っ直ぐ見つめる君。話せば話す程もっと知りたくなって、近付けば近付いただけ、もっと近付いて、触れ合いたいと思うようになった。
あぁ、君に触れることが出来たら、どんなにいいだろうか。
僕はゆっくりとマジックミラーに近付いた。目をぎゅっと瞑って頭を洗う君のそんな姿を、僕はとても愛しいと思う。
「小松君……」
すきだよ。
その言葉は、音にならず、君の耳にも届かずに、静かに部屋の中へと飲み込まれる。空しい言葉だなんて思わない。僕はこの気持ちを、感情を知ることが出来て、良かったと思う。そしてそれを捨てるつもりも、毛頭なかった。
「愛してる」
いつかこの言葉を君に言う日が来ると良いな。
僕は笑って、静かに小松君に背を向ける。泡を洗い落とす小松君を最後に、僕はゆっくりとベッドの方へと戻り、操作パネルのボタンを押した。
ベッド以外に特に何があるわけでもない、なんの変哲もないラブホだった。使ったことはなかったけれど、ある程度の知識としては僕だって持っている。
椅子もない部屋。休むのはどうやら、ベッドの上しかないようだ。僕は息を吐きながら、ぎしりと音を立ててベッドに座る。他に何もすることがない。そんな静かな部屋の中で小松君がシャワーを浴びている音を聞いていると、なんだか変な気分になりそうだった。
僕は気を紛らわせるために、仕方なしに部屋の中を順々に見回していく。
成程、部屋にはそういったプレイを楽しむための玩具が売られているし、ローションなんかも完備しているようだし、枕元には僅かばかりのスキンが置いてある。そういう行為をするのに、何も不足はないようだった。勿論、不足なぞあってはならないのだろうが。
「ふうん」
僕はテレビのリモコンを手に取ったけれど、まさかここでニュース番組が見られるわけもないだろうと、それをぽいと枕元に放り投げた。次にそこにあった操作パネルを見てみると、掠れた文字がいくつか並んでいる。そのうちのいくつかは予測がし易いものではあったけれど、一つ二つわからないものがあった。
「……鏡、ねえ」
大体こういう所は悪趣味なものを配備していることが多い。僕は興味本位で、そこをぽちりと押してみた。すると視界の端にあった壁が、瞬時に浴室の映像を映し出す。
「……っ?! 隠しカメラ……いや、マジックミラー、か」
僕は一瞬ひやりとしたその考えを置き、じっとそこを見つめた。小松君が体をごしごしと擦っている所だった。あぁ、そんなに擦っては傷がついてしまうよ。と、僕は眉間に皺を寄せる。勿論、声が届かないのも承知の上で。
いや、そんな場合じゃない。と、僕の中の冷静な僕が告げてくる。いやでも、もうちょっと、あとちょっとだけ。そんな考えにも支配された僕は、ごくりと生唾を飲み込んだ。
だって、夢にまで見た小松君の体なのだ。思いは結ばれることはないとは思うけれど、ちょっとくらい、そう、ちょっとくらいの夢は見たって良い筈だ。最も、確かにこれは今すぐにでもやめるべき行為だとは思うのだけど。
目が思わず、その体に釘付けになってしまう。筋肉質とも言えないけれど、別にぽっちゃりしているわけでもない体。それでいて、体つきはやっぱり男だ。当然ではあるとは思うけど。それから頭を洗う指先だって、料理人らしい指先だ。
いつも美味しい料理を作ってくれる手。初めて心から「美味しかったよ」と、小松君にそう言った時の、あの小松君の笑みが忘れられない。僕は多分、あの時君に惚れてしまったんだろうなあとそんなことを思う。
屈託なく笑う君のその姿に、誰にでも、何に対しても真摯に真っ直ぐ見つめる君。話せば話す程もっと知りたくなって、近付けば近付いただけ、もっと近付いて、触れ合いたいと思うようになった。
あぁ、君に触れることが出来たら、どんなにいいだろうか。
僕はゆっくりとマジックミラーに近付いた。目をぎゅっと瞑って頭を洗う君のそんな姿を、僕はとても愛しいと思う。
「小松君……」
すきだよ。
その言葉は、音にならず、君の耳にも届かずに、静かに部屋の中へと飲み込まれる。空しい言葉だなんて思わない。僕はこの気持ちを、感情を知ることが出来て、良かったと思う。そしてそれを捨てるつもりも、毛頭なかった。
「愛してる」
いつかこの言葉を君に言う日が来ると良いな。
僕は笑って、静かに小松君に背を向ける。泡を洗い落とす小松君を最後に、僕はゆっくりとベッドの方へと戻り、操作パネルのボタンを押した。
PR
この記事にコメントする