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「ココさーんっ!」
小松君の呼ぶ声が聞こえる。僕は閉じていた目を開き、耳を澄ました。
「どこですかー? ご飯出来ましたよーっ」
さくさくと地面を歩く小松君の足音が、僕が座っている木の下にまでやってくる。僕は口端を緩めると、ぶらぶらと足を揺らした。
「もうっ! 隠れてないで出てきて下さいよー! ご飯覚めちゃいますよー?」
また歩いていこうとする小松君の背後に、僕は音を立てないように気配を殺して近付いた。小さな体に腕を伸ばし、その体を捕えると同時に僕は羽を動かして、飛ぶ。
小松君が驚いたように体を硬直させた姿に、僕はクックと声を立てて笑った。
「うわああああ!?」
「凄い叫び声だね。僕だよ、小松君」
僕の声に、小松君が暴れていた手を止めて、恐る恐るといった風に顔をあげて僕を見つめた。小松君はやがてむうと眉間に皺を寄せると、僕の胸元をその小さな拳で一度ぽかりと殴った。
「ココさんっ! もうっ! また隠れていたんですか!?」
「隠れてるつもりは、なかったんだけどなあ」
君が気付かなかっただけだよ。
僕は言いながらまた羽を動かし、ぐんぐんと地上から離れていった。小松君にはちょっと怖い高度なのか、小さな手が僕の首に縋りつき、ぎゅうと抱きついてくる。
僕はあやすように小松君の背中を撫でてやりながら、ふと簡単に背後を許してしまう小松君が気になった。
眉間に皺を寄せた僕は、小松君の顔を覗き込んで忠告をするような声音で小松君に告げる。
「陰陽師の癖に、僕みたいなあやかしの気配に気付けないのは、ちょっとまずいんじゃないの?」
「そこにほんの少しでも悪意があればそりゃ気付くと思いますけど、ココさん、そんなものないじゃないですか!」
そんなものだろうか。
僕が首を捻ると「ココさんは悪いあやかしじゃないから」と、小松君が笑うから、それでいいことにした。
それから、笑う君の耳元に唇を寄せて、僕は甘ったるく、夜を思わせるような声音で囁いた。
「……悪戯心はあるけどね」
「……っ!」
「こんな風にね」と、呟いて、僕は小松君を抱える手からわざと力を抜いた。
途端「うわわわわっ」と、叫んだ小松君が、手と言わず足まで使って僕にしがみついてくる。そんな小松君の姿に、僕は思わず声を立てて笑っていた。
「意地悪ですよっ! 僕の従者のくせにーっ!」
「君が可愛いからいけないんだよ」
僕は笑いを治めながら、再び小松君の体を抱えた。だけどどうやら、小松君の不審はそれだけでは拭えないらしい。足も手も、僕の体から剥がれることはなかった。
「主人に対して可愛いって、それどうかと思いますけど」
「そう? ごめんね、嘘はつけないタチなんだ」
僕の言葉に、小松君ははあ、と息を漏らした。ままあることだ。
「どの口が言いますか」
本当に、小松君のことに関して、僕は嘘は吐いたことがないよ。
そう言おうとしたけれど、ふと思いついた悪戯に心を揺さぶられ、僕は口元を緩めて、ぐっと小松君に顔を寄せた。
「勿論、この口だよ?」
「ちょ、ココさ……っ!」
驚きに目を見張る小松君の唇を、抗議の声ごと塞いだ。後で色々と言われるだろうけど、だって接吻してしまいたくなったんだから仕方ない。
それより、このままいくとすぐ家についてしまうのがちょっと、名残惜しい。
せめてもうちょっとだけ君とこの時間を楽しみたくて、僕はわざと帰る道程を遠回りすることにした。
ただ思うがままに吐き出した。後悔はしていない。
多分家ではトリコさんがご飯を「待て!」されて、すんごいお腹減らしながら待ってる。超待ってる。
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