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元気のないTさんがちょっとでも元気になれますようにと願いつつ、

仔狸とちょっと弱っているココさんの話。

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「にゃあ」
 ベッドに横になっていた僕に、微かなそんな声が聞こえてきた。
 ぎしりと軋むベッド。それからうつ伏せで寝ている僕の体に擦り寄る、小さな体。
「ココさん」
 甘えたような声が聞こえてくる。それでも体は動かない。酷く億劫だった。色々と嫌なことが積み重なった挙句に、嫌な夢まで見てしまった。
「ココさん?」
 僕が養っている仔狸は、不思議そうに僕を見つめている。僕は枕に顔を埋めたまま、小松君の方を見ないまま口を開いた。
「……ごめんね、酷く疲れてて、おまけに嫌な夢まで見てしまってね。今日は構ってあげられそうにもないや」
 僕がそう言うと、仔狸は黙ってしまった。僕が遊び相手にならないと、悟ったのかもしれない。仔狸はベッドから降りて、とてとてと小さな足音を響かせながら別の部屋へと向かってしまった。
 それでいい。こんな姿、あまり彼には見せたくないから。
 僕はごろりと寝返った。瞼の上に手を乗せて、僕は深い溜息を落とす。本当は今日、小松君と遊んであげる約束だったのになと、僕は自己嫌悪に陥った。きっと小松君も、楽しみにしていたに違いないだろうに。
 そこまで考えていた所に、また扉の開く音がした。それと同時に「んしょ、んっしょ!」と、何かをずるずると引き摺る音と、仔狸の声まで聞こえてくる。
 僕が不思議に思って手を瞼の上から退かせるよりも早く、ばさりと何かが僕の腹の辺りに掛けられた。
「……っ、こ、まつくん?」
「寝るならブランケット掛けないと、夏でも風邪ひいちゃうっていったの、ココさんです」
 仔狸は笑いながらそう言って、僕の体に丁寧にブランケットを掛けてくれた。それから自分もブランケットに潜り込んで、僕の胸に顎を乗せて僕を見つめてくる。
「嫌な夢を見た時は、人の温もりが一番いいらしいですよ」
 メルクさんが言ってました! と、小松君はとても嬉しそうにそう言って、僕の体に擦り寄ってくる。
「あ、でも僕、狸ですけど」
 えっと、駄目かな。と、仔狸は小さく首を傾げて、どこか困ったような表情でオロオロとしている。呆然とその一連の出来事を見ていた僕は、仔狸のそんな姿に、柔く笑ってしまった。
「……にゃっ?!」
 オロオロする仔狸を腕に抱き込み、僕はぎゅうとその小さな体を抱き締める。頬に当たった仔狸の耳が、ぱたぱたと僕の頬をくすぐった。
「小松君が一緒に寝てくれたら、元気になれる気がするよ」
「本当ですかっ?!」
 ぱっと顔をあげた仔狸の笑みが眩しくて、僕は瞳を細める。小さく頷いてやると、仔狸はいそいそと僕の腕の中で丸くなって、甘えたように僕の体に擦り寄ってきた。
「ココさんが早く元気になれるように、おまじないしておきますねっ!」
 仔狸はそう言うと、僕の頬に口付けて僕の肩に嬉しそうに頭を乗せた。そのまま目を閉じた仔狸の顔を見つめながら、小松君を乗せていない方の手で口付けられた頬を撫でる。
 あぁ、全く君にはやられっぱなしだよ。
「おやすみ、小松君」
「おやすみなさいっ、ココさんっ!」
 仔狸の体温は高くて、温かい。夏が近い季節とはいえども、それは決して不愉快ではなかった。すぐに寝息を立て始めた仔狸の姿に笑い、僕は剥き出しの方に、ブランケットが掛かるようにしてやった。
「ありがと、小松君」
 仔狸を抱え、僕はまた瞳を閉じた。温かく、優しい温もりを腕に抱きながら。
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