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「小松君、ごめんってば」
帰ってきて早々、布団の中に籠城してしまった仔狸の背中であろう部分を、僕は撫でた。中からフーッと毛を逆立たせる音が聞こえてきて、僕は困ったものだと首裏を掻いた。
「ココさんの嘘吐きぃっ」
ぴにゃーという、仔狸の精一杯の威嚇のような声がややくぐもって聞こえてきた。
「散歩って嘘吐いたのは謝るけど、君のためなんだよ。わかってくれないかな?」
仔狸はもぞりと布団の中で動く。中で呻いている声が弱まった。
「……だって、すごく痛かったんですよ」
「うん、頑張ったね」
偉かったよ。と、僕はその背中をぽんぽんと優しく、宥めるように叩く。
病院から帰る時、僕の胸に顔を埋めて震える小松君はとても可愛かった。だけど、そんなこと言ったら怒られるから、見えないことをいいことに僕は思わず口端を緩める。トリコやサニー辺りが見たら「きしょい」と言われかねないが、仕方ない。飼い主馬鹿と言われるかもしれないが、僕はこの仔狸が可愛くて堪らないのだから。
「君といっぱい色んな所に行きたいし、美味しいものもいっぱい食べたいから、必要なことだったんだよ」
ぴくんと震えた布団の隙間から、仔狸がもぞもぞと二つの目を覗かせる。布団の隙間を覗き込むように屈みこんで、僕はちょっとだけ寂しそうな顔を浮かべてみた。
「僕のこと、嫌いになっちゃったかな」
ごめんね。と、僕は布団のその目から目を離す。屈みこんだ体を起こして、さてご機嫌取りに小松君の好きなフグ鯨型チョコレートか、虹の実ゼリーで釣ろうと立ち上がった。
それと同時にがばっと布団から出てきた仔狸が、僕の背中にまるで突進するみたいに突っ込んできた。
「っ?! こ、小松君っ?」
「いかないでっ! 良い子にします、から! 注射もう、嫌とか、言わないように頑張りますから!」
どうやら勘違いさせてしまったらしい。僕は仔狸の小さな、震える手を引き剥がす。振り返ると、傷付いたような仔狸の顔がそこにあった。僕は小松君の目線に合わせるように床に座ると、小松君の頭を怯えさせないようにゆっくりと撫でてやった。
「行かないよ。良い子で頑張った小松君に、ご褒美をあげようと思っただけだよ?」
大きな瞳には涙が浮かんでいる。指先でそれを拭ってやれば、小松君がきょとんと僕の顔を見上げた。
「ごほーび?」
「そう、フグ鯨チョコと、虹の実ゼリー、どっちがいい?」
小松君の目が見開かれる。僕を見上げたまま、まるで僕の言葉を吟味するみたいに。
「それとも他のがいいかな? なんでもいいよ。騙しちゃったお詫びと、良い子にしてたご褒美」
「本当に? 僕、良い子だったとは思えないんですけど……」
「どうして? 注射する時、ちゃんと大人しくしていたじゃない。お医者さんも偉いねって頭を撫でてくれたろ? それに泣き喚くこともなかったし、ちゃんと良い子だったよ?」
病院に入るまでは大変だったけど。
それを言うとまた話がややこしくなるので、あえてそれは言わなかった。
僕の言葉に小松君は嬉しそうに頬を染めると、もじもじと視線を落ちつかなげに左右に這わせる。やがて僕の服の裾を掴んむと、照れたように僕を上目遣いに見つめた。
「ほっとけーき」
「ん?」
「ココさんの作ったふわふわのホットケーキが食べたいです」
おやと僕は仔狸を見下ろす。もじもじとした小松君は相変わらず、僕の様子を伺っているようだ。僕は笑って、小松君の体を抱き上げる。
「ふふ、ふわふわのホットケーキだね。わかった。とびっきりに美味しいの、作ってあげる」
「ほんとですかっ!」
尻尾がぽふぽふと揺れて、僕の腕に当たる。可愛らしいそれに笑って、キッチンまで辿り着いた僕は小松君を床の上に降ろした。
「じゃあ、手伝ってくれる?」
「はいっ! 僕、卵割りますねっ!」
ぱたぱたと小松君は冷蔵庫へと向かう。ふわふわの尻尾がゆらゆらと嬉しそうに揺れているのが微笑ましくて、僕はその小さな背中を見送ってから、小さく笑みを浮かべるのだった。
帰ってきて早々、布団の中に籠城してしまった仔狸の背中であろう部分を、僕は撫でた。中からフーッと毛を逆立たせる音が聞こえてきて、僕は困ったものだと首裏を掻いた。
「ココさんの嘘吐きぃっ」
ぴにゃーという、仔狸の精一杯の威嚇のような声がややくぐもって聞こえてきた。
「散歩って嘘吐いたのは謝るけど、君のためなんだよ。わかってくれないかな?」
仔狸はもぞりと布団の中で動く。中で呻いている声が弱まった。
「……だって、すごく痛かったんですよ」
「うん、頑張ったね」
偉かったよ。と、僕はその背中をぽんぽんと優しく、宥めるように叩く。
病院から帰る時、僕の胸に顔を埋めて震える小松君はとても可愛かった。だけど、そんなこと言ったら怒られるから、見えないことをいいことに僕は思わず口端を緩める。トリコやサニー辺りが見たら「きしょい」と言われかねないが、仕方ない。飼い主馬鹿と言われるかもしれないが、僕はこの仔狸が可愛くて堪らないのだから。
「君といっぱい色んな所に行きたいし、美味しいものもいっぱい食べたいから、必要なことだったんだよ」
ぴくんと震えた布団の隙間から、仔狸がもぞもぞと二つの目を覗かせる。布団の隙間を覗き込むように屈みこんで、僕はちょっとだけ寂しそうな顔を浮かべてみた。
「僕のこと、嫌いになっちゃったかな」
ごめんね。と、僕は布団のその目から目を離す。屈みこんだ体を起こして、さてご機嫌取りに小松君の好きなフグ鯨型チョコレートか、虹の実ゼリーで釣ろうと立ち上がった。
それと同時にがばっと布団から出てきた仔狸が、僕の背中にまるで突進するみたいに突っ込んできた。
「っ?! こ、小松君っ?」
「いかないでっ! 良い子にします、から! 注射もう、嫌とか、言わないように頑張りますから!」
どうやら勘違いさせてしまったらしい。僕は仔狸の小さな、震える手を引き剥がす。振り返ると、傷付いたような仔狸の顔がそこにあった。僕は小松君の目線に合わせるように床に座ると、小松君の頭を怯えさせないようにゆっくりと撫でてやった。
「行かないよ。良い子で頑張った小松君に、ご褒美をあげようと思っただけだよ?」
大きな瞳には涙が浮かんでいる。指先でそれを拭ってやれば、小松君がきょとんと僕の顔を見上げた。
「ごほーび?」
「そう、フグ鯨チョコと、虹の実ゼリー、どっちがいい?」
小松君の目が見開かれる。僕を見上げたまま、まるで僕の言葉を吟味するみたいに。
「それとも他のがいいかな? なんでもいいよ。騙しちゃったお詫びと、良い子にしてたご褒美」
「本当に? 僕、良い子だったとは思えないんですけど……」
「どうして? 注射する時、ちゃんと大人しくしていたじゃない。お医者さんも偉いねって頭を撫でてくれたろ? それに泣き喚くこともなかったし、ちゃんと良い子だったよ?」
病院に入るまでは大変だったけど。
それを言うとまた話がややこしくなるので、あえてそれは言わなかった。
僕の言葉に小松君は嬉しそうに頬を染めると、もじもじと視線を落ちつかなげに左右に這わせる。やがて僕の服の裾を掴んむと、照れたように僕を上目遣いに見つめた。
「ほっとけーき」
「ん?」
「ココさんの作ったふわふわのホットケーキが食べたいです」
おやと僕は仔狸を見下ろす。もじもじとした小松君は相変わらず、僕の様子を伺っているようだ。僕は笑って、小松君の体を抱き上げる。
「ふふ、ふわふわのホットケーキだね。わかった。とびっきりに美味しいの、作ってあげる」
「ほんとですかっ!」
尻尾がぽふぽふと揺れて、僕の腕に当たる。可愛らしいそれに笑って、キッチンまで辿り着いた僕は小松君を床の上に降ろした。
「じゃあ、手伝ってくれる?」
「はいっ! 僕、卵割りますねっ!」
ぱたぱたと小松君は冷蔵庫へと向かう。ふわふわの尻尾がゆらゆらと嬉しそうに揺れているのが微笑ましくて、僕はその小さな背中を見送ってから、小さく笑みを浮かべるのだった。
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