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アップしようか迷ってるココマ。
随分と前に書いたものの、なんかちょっと微妙な作品なんであげるの迷ってました。
その内直したりしてupするかもしれませんけど、お試しで続きからどうぞー!
酷いくらい何がしたいのかわからない小説です(;´д`)読む時は心して読んだ方がいいかも…w
風邪ひきココさんのお話です。
随分と前に書いたものの、なんかちょっと微妙な作品なんであげるの迷ってました。
その内直したりしてupするかもしれませんけど、お試しで続きからどうぞー!
酷いくらい何がしたいのかわからない小説です(;´д`)読む時は心して読んだ方がいいかも…w
風邪ひきココさんのお話です。
それはある冬の寒い日の出来事だった。仕事が終わって、さあ帰ろうと伸びをした時に吹いた突風。寒さに身を縮ませた僕に訪れる、ふわりとした浮遊感。
「…ふぇ!? にゃ、にゃあああああああ!?」
僕の絶叫が辺りに木霊する。道行く人が何事かと振り返り、そして怯えたように距離を取った。
「な、なになになになに!??!?」
動揺に声をあげる僕に答える声が、ひとつ。よく聞き慣れたそれと落とされた場所に驚いて、僕は更に声をあげた。
「き、キッス!?」
ひしとその黒い毛並みを掴むと、僕の声に正解だとでも言いたそうな声をあげてキッスが羽ばたいた。辺りに響く羽の音に、まわりの人はぽかんとしたように僕らを見つめていた。
そりゃそうだ、こんな街のど真ん中に、こんな大きい鳥がいるのだから。何も知らなかったら僕だってそうなる。
そして何より心配なのは、この鳥の家族の方でもあり、僕の恋人でもある人のこと。いつだって紳士的で四天王の中ではどちらかといえば常識人でもある彼が、こんな突然人攫いのようなことをする筈がない。いつもなら、迎えにくる時は必ず前日には連絡が入る筈だし、キッスだけの迎えになる時は申し訳なさそうに、ちゃんとその旨も伝えてくれる。
それなのに、今日は何の約束をしたわけでもない。常にはないこの事態に僕は首を傾げた。
キッスは少し、焦っているように見える。気のせいだろうか? 振り落とされることはないだろうけど、それでもいつもよりは随分と早い速度で飛んでいるように思えてならない。
気を抜けばきっと僕は空中に放り出されるに違いない速度だ。
「ココさんに何かあったの?」
言えば、キッスがやっぱり切羽詰まったような声で鳴く。僕はキッスの様子に、これは非常事態かもしれないと、ココさんのことが心配になった。
トリコさん達は呼ばなくても大丈夫なのだろうか? 僕一人で解決出来るだろうか? 不安が一杯の僕は携帯を取り出してトリコさんに連絡をしようかと思ったけれど、それも出来なかった。情けないことに、ココさんの支えがない僕は両手でしっかりキッスに捕まっていなければ、すぐにも振り落とされそうだった。
そして、そうこうしている内にあっという間に目的地が見えてきた。どうしようかとオロオロしているだけだった僕は、当然誰にも連絡していない。
着地態勢になったキッスが荒々しく下降する。僕もココさんの家が見えて、ちょっと油断していたのだろう。キッスの背中から弾き飛ばされたかのように、体が宙に浮いた。
「にゃっ、にゃああぁああぁっ!?」
振り落とされた僕は、けれどしっかりとキッスの嘴に助けられた。
「…あ、ありが、とう」
キッスは着地した時の荒々しさとは正反対に、優しく僕を地面に降ろしてくれた。もしかしてキッスは背中から降りる僕の大変さを考慮して、わざと振り落としたのかと思ったけれど、聞くことは叶わない。キッスは急くように僕の背中を押して、家へと押しやろうといるようだった。
「…わ、わかったよ。様子、見に行けばいいんでしょ?」
キッスは少し切なそうな声を出して僕を更に押しやった。キッスに押されるままに家の扉の前まできた僕は、一度深呼吸をして扉をノックする。
時間帯は既に深夜だ。普通ならココさんは寝てる筈だ。
「……ココさあぁん…いますかー?」
返事はなかった。キッスがぐいぐいとまだ背中を押してくる。
「…うーん。流石に、恋人…と、いえど僕が勝手に家に入るのはちょっと…」
その声に、キッスがぴたりと動きを止めた。僕の横までくると、一体どうしたのかは知らないが、その大きな嘴で器用に扉を開いた。
「…うわっ、器用だね、キッス」
また嘴でぐいぐいと押され、キッスが催促する。そんなに重大なことでも起きたのだろうか?
「お邪魔します…っと、わかったよ、行くからそんな押さないで?」
キッスは僕の言葉を理解したのか、その大きな頭を家の中に入れるとそのまま落ち着いたようだった。
僕はキッスの視線に催促されるがまま、家の中を見て回る。
家の中は当然、暗い。電気もつけられるけれど、ココさんを起したら可哀想だという想いから、僕は敢えて月明かりのみを頼りに家の中を歩いて、ココさんの寝室をまたノックする。
何度も訪れた家の中を把握している僕には、月明かりだけで十分だ。
「…ココさん?」
返答はない。随分深く寝入っているのだろうか。そっと寝室へと続く扉を開いて、僕は愕然とした。この寒い中、毛布もかけずに寝ているココさんがいたものだから。
「ちょっ、ココさん! 風邪引きますよ!」
見てみればカーテンも引かれていないし、ハント帰りらしいココさんの靴は汚れたまま。挙句に鞄も何もかもがそこら辺に散乱している。見れば服だって普段着のままだ。
ちゃんとしている彼にしては珍しい様子に、僕は近付いて彼を覗きこんだ。
「……ココさん?」
やっぱり反応はない。けれど、様子がおかしい。月明かりだけの部屋では判別がし辛くて、僕はそっと彼の額に手を触れてみる。
「…っ!」
すぐに手を引っ込めて、僕は鞄を落として慌ててキッチンへと向かった。尋常じゃない暑さだ。呼吸も荒いように見えた僕は、慌てて何かないかとキッチンや棚を勝手に漁る。
元よりココさんから、家の中のものは勝手に使っていいという許可は貰っている。
「あった。これと、あとこれと…」
もうココさんが起きたら可哀想という思いはなく、僕は躊躇することなく電気をつけた。暗闇の中で動くにも、限度がある。そして、今は躊躇している場合ではなかった。
タオル、氷、洗面器、あとは着替えに…と、必要なものを集める。それらを両手一杯に抱えて、僕はまた寝室の扉を行儀悪く足で開いた。
ベッドサイドにそれを置いて、ココさんのターバンを外して額に滲む汗を拭く。隣の居間から漏れてくる明かりがココさんの顔を淡く照らす。その頬は赤く、苦しそうに眉根に皺が寄っていた。
「…凄い、熱い」
氷をタオルで包んで首に押しあてると、幾許かココさんの顔が和らいだように思えた。
「……ん、んん……だれ」
「ココさん? 気がつきました?」
薄く開かれた目に、僕は苦笑する。首や腕に巻かれた包帯を取る最中のことだった。熱に浮かされたような、潤んだ瞳に僕は、この状況に相応しくもなくどきりと心臓を高鳴らせる。
「こまつ、くん?」
「…はい、小松です」
そっとタオルを洗面器に浸し、また絞る。ぼんやりとしたような瞳を向けてくるココさんの瞳に、いつもの光は見えなかった。
「大丈夫ですか? 風邪…だと思うんですけど」
「帰って」
額に再度タオルを乗せると、ココさんが弱弱しい声でそう言った。
「こんとろーる、効かない、から」
舌っ足らずな声でココさんがそう言った。どこまで優しい人なんだろう。と、僕はそのくすぐったさに静かに口元を緩めた。
「そんな状態で、一人残して帰るわけにはいきませんよ」
「寝たら、なおるから。君はかえるんだ」
「キッスが帰してくれませんよ。余計なお喋りは禁止です、何も気にせず、眠っていて下さい」
掌でココさんの目を覆った。暫く何事かを呟いていたココさんだったけれど、すぐに静かになる。余程辛いのだろうことは、見なくてもわかる。
毒の抗体があるのだから、風邪の抗体なんて普通に持っていそうだけど…と、思ったけれど、風邪は病気だ。毒とはまた違うのかもしれないと思い直す。現にこうして、ココさんは苦しんでいるし。
服を着替えさせてあげようとその体を覆うタイツに手を掛ける。躊躇は一瞬。僕は気合いを入れて脱がしに掛った。
勿論、僕が簡単に意識のないココさんを着替えさせられるわけがない。上半身を起こすことなんて、まず不可能だから、少しずつ脱がして行った。上から下までぴっちりと締め付けるそれを代えている間に、風邪を更に悪化させてしまうと思った僕は、ココさんの上半身まで脱がせた。
上半身を濡れタオルで拭いて、前で締めるタイプのパジャマを取り出して着替えさせる。それだけでもう僕は疲労困憊だ。
ココさんの下にある毛布は取り出せなさそうだったから、僕がいつも泊る時に使わせて貰う筈だった毛布を取り出して、ココさんに掛ける。
結局、いつも同じベッドで寝るから、恋人になってからは使ったことのない毛布だ。と、今は必要ないことまで思い出して、僕は勝手に一人で真っ赤になる。
それを振り払うように下半身も同じように拭いて、着替えを終える頃にはもう結構な時間が経っていた。
「……ふ、はあ…っ…つ、つかれた」
上半身にだけ掛けていた毛布を下半身にも掛けて、僕は額に滲んだ汗を拭った。額に乗せたタオルをまた洗面器に浸し、ココさんの額に乗せる。首元に当てていたタオルの中の氷も溶けていたから、また氷を包んでココさんの首筋に当てる。
僕は居間から椅子を持ってこようと立ち上がる。ついでに氷もまた作っておこうと思い立って居間に行けば、キッスが心配そうに未だ部屋の中を覗きこんでいた。居間は、開きっぱなしの扉から風が入って、大分寒い。
「もう大丈夫だよ。扉、開けっぱなしだとココさんの体に障るから、閉めてもいいかな?」
お伺いを立てると、キッスは了承したとばかりに頭を引っ込める。僕はキッスにおやすみと告げて、扉を閉めた。それでも心配なのか、ココさんの部屋が見える窓まで移動して、キッスは丸くなる。
ついでに何か消化の良いものでも作ろうと、僕はキッチンに立つ。
「何がいいかな。消化が良いのがいいよね。そういえば冷蔵庫に…――」
僕は色々考えながら料理に必要なものを出して行く。そこで、ふと色々なことが頭を過った。そのどれもが、今回の原因になっているんじゃないかと思い当たって、僕はちくりと痛むそれを胸に抱えて、暫く料理に没頭した。
「…小松君」
朝の柔らかい日差しが微かにカーテンの隙間から零れているらしい。瞼に感じる日差しが、眩しい。それと同じくらい柔らかい声で名を呼ばれ、頭をそっと撫でられたのがわかる。
「……んん」
「小松君、起きて」
ちょっと鼻に掛ったような声。僕が寝惚けたような声を出すと、ふうと一つ溜息が落とされる。
「…ふぁっ!?」
鼻を抓まれて、僕は思わず目を見開いた。
「…うぅっ、ん? あれ、えーと」
「おはよう」
ココさんは憮然とした表情だ。その顔色は、大分良いようで、僕は安堵する。
でもまだ油断は禁物。ココさんの頬はまだ赤いし、体温も昨日よりはマシになったとはいえ、大分高い。
「お、おはようございます。あの、大丈夫ですか?」
「帰ってと言ったのに、どうして帰らなかったの。それに、君、こんなに冷たくなって…」
ココさんの手が僕の頬に触れて、眉を顰める。僕が使う毛布はココさんの体に巻きつけていてなかったし、まさか病人のココさんと同じ布団で横に寝るわけにもいかなかった僕は、そのままタオルケットを体に巻いて、椅子で眠りこけていた。
「はは、厨房で寝てたこともあるくらいですよ。平気です、これくらい。それより、朝ご飯食べられますか? 昨日作っておいたんで、すぐにお出しできますけど」
「君はまず、お風呂で暖まっておいで」
「ココさんが朝ご飯食べてる間に入らせて貰います」
ココさんが言えば、僕が言う。今日は僕も引く気はなかった。それを悟ったのだろう、ココさんがまた溜息を吐いた。
「…わかった。貰うよ、まだそんなには食べられそうもないけどね」
「はいっ!」
僕はココさんに笑うと、ぱたぱたと寝室を後にする。昨日作った料理を温めて、お盆の上に乗せた。卵豆腐に、きのこレンコンやしょうが木、グルメミツバチの蜂蜜なんかをお湯で混ぜた飲物、あとは栄養あるものを細かく刻んで混ぜた雑炊だ。
「お待たせしました、なるべく消化が良くて、喉によさそうなものを作ってみましたけど、無理して食べたり飲んだりしなくて平気ですからね」
「ありがとう」
ココさんは照れ臭そうにそう言うと、ベッドサイドに置かれたそれに手を伸ばそうとする。でも、やっぱりその仕草はだるそうだ。
その伸ばされた手よりも早くスプーンを取ると、僕は雑炊を掬って息を吹きかける。
「小松君?」
「…まだ、辛そうです。たまには、僕に甘えてくれてもいいんじゃないですか?」
「僕はいつも、君に甘えてるよ?」
「…足りません。もっと甘えて下さい」
ぐいっとスプーンを差し出すと、観念したのかココさんが笑って口にした。もごもごと動く口を見つめると、また照れたように視線を逸らすココさんを、つい可愛いと思ってしまう。
「あんまり見ないで。格好悪い所ばっかり見られてるね、僕は」
「すいません。珍しくて、つい。こう言っては失礼ですけど、可愛いなって」
冷ましながら言えば、ココさんの頬がまた赤くなっていた。
「あれ、頬赤いですよ。まさか熱が…」
「…大丈夫。君のせいだから」
額を抑えたココさんに首を傾げると、「やっぱりわざとじゃないんだよね」と、ココさんは言って苦笑した。
それからは黙々と食べる方に集中し、ココさんは半分程平らげた所でぽつりと呟く。
「心配してくれるのも、色々してくれたのも有り難いのだけど…」
言い難そうにココさんが視線を逸らす。その口に雑炊を運びながら、僕は首を傾げて話を促した。
「意識のない僕は無意識に毒を出しているかもしれない。気化したものかもしれないし、液体のそれかもしれない。こんな風邪一つで、コントロールも曖昧になる程僕の状態は危うい」
キッスが連れてきたのは想定外だったから、次はこんなことがないようによく言っておく。ごめん。と、ココさんは言って、俯いた。
僕は一度、スプーンを置いた。俯いたココさんに優しく、声を掛ける。
「…最近、無理しすぎなんじゃないかと思っていたんです」
「え?」
顔をあげたココさんに、僕は微笑んで見せた。
「僕に会う為に、色々と調整してくれていたでしょう? ハントに行ったり、占い業を根詰めたりしてましたよね? それが、嬉しかったんです、僕。浮かれてて、そんなに危うい状態にまでココさんが疲れてるだなんて、思いもしなくて」
「違うよ、それは」
「昨日、ココさんの苦しそうな顔を見て、気付いたんです。僕はそんな風に、ココさんにばかり無理をさせていたんじゃないかって」
「僕がしたくて、していたことだ。自己管理が出来なかったのは僕の責任だよ、君のせいじゃない」
「ありがとうございます。でも、僕は貴方の恋人…ですよね? こういう時に頼って貰えないと、寂しいです」
ココさんはぐっと言葉に詰まったようだった。
やがて小さくまた息を吐くと、困ったように眉根を寄せた。
「参ったな。君は僕を甘やかし過ぎだよ」
そうやって言われたら、僕にはもう何も言えなくなってしまうよ。と、ココさんは困ったように、嬉しそうに言う。その表情がくすぐったくて、僕も微笑む。
「でもね、だからって君がこんなに体を冷やしていい理由にはならない。それじゃ元も子もないだろう?」
「…はい」
やっぱりちくりとする言葉を吐き出す人だ。僕はわざと逸らしていたその話題を出されて、口を噤む。
「わかったなら、お風呂に入ってきて」
「はは、わかりました。それじゃ、お湯、頂きますね」
「うん」
僕はココさんに見送られて、洗面所へと向かった。変な姿勢で眠ったからか、体の節々がちょっと痛かった。
それから安心していた僕は、間抜けなことに職場に連絡することをすっかり忘れてしまっていた。
風呂からあがった僕は、ココさんの「仕事はどうしたのか」という問いにはたと思い出して、慌てて連絡を取ると言う情けない結末を迎えることになって、ココさんは仕方ないなあ…と、いうような、そんな顔をしていたっけ。
それからその数日後、快復したココさんと入れ替わるように、セオリー通りなのかなんなのか、今度は僕が酷い発熱に苦しめられることになることを、この時の僕はまだ思いもしなかった。
「…ふぇ!? にゃ、にゃあああああああ!?」
僕の絶叫が辺りに木霊する。道行く人が何事かと振り返り、そして怯えたように距離を取った。
「な、なになになになに!??!?」
動揺に声をあげる僕に答える声が、ひとつ。よく聞き慣れたそれと落とされた場所に驚いて、僕は更に声をあげた。
「き、キッス!?」
ひしとその黒い毛並みを掴むと、僕の声に正解だとでも言いたそうな声をあげてキッスが羽ばたいた。辺りに響く羽の音に、まわりの人はぽかんとしたように僕らを見つめていた。
そりゃそうだ、こんな街のど真ん中に、こんな大きい鳥がいるのだから。何も知らなかったら僕だってそうなる。
そして何より心配なのは、この鳥の家族の方でもあり、僕の恋人でもある人のこと。いつだって紳士的で四天王の中ではどちらかといえば常識人でもある彼が、こんな突然人攫いのようなことをする筈がない。いつもなら、迎えにくる時は必ず前日には連絡が入る筈だし、キッスだけの迎えになる時は申し訳なさそうに、ちゃんとその旨も伝えてくれる。
それなのに、今日は何の約束をしたわけでもない。常にはないこの事態に僕は首を傾げた。
キッスは少し、焦っているように見える。気のせいだろうか? 振り落とされることはないだろうけど、それでもいつもよりは随分と早い速度で飛んでいるように思えてならない。
気を抜けばきっと僕は空中に放り出されるに違いない速度だ。
「ココさんに何かあったの?」
言えば、キッスがやっぱり切羽詰まったような声で鳴く。僕はキッスの様子に、これは非常事態かもしれないと、ココさんのことが心配になった。
トリコさん達は呼ばなくても大丈夫なのだろうか? 僕一人で解決出来るだろうか? 不安が一杯の僕は携帯を取り出してトリコさんに連絡をしようかと思ったけれど、それも出来なかった。情けないことに、ココさんの支えがない僕は両手でしっかりキッスに捕まっていなければ、すぐにも振り落とされそうだった。
そして、そうこうしている内にあっという間に目的地が見えてきた。どうしようかとオロオロしているだけだった僕は、当然誰にも連絡していない。
着地態勢になったキッスが荒々しく下降する。僕もココさんの家が見えて、ちょっと油断していたのだろう。キッスの背中から弾き飛ばされたかのように、体が宙に浮いた。
「にゃっ、にゃああぁああぁっ!?」
振り落とされた僕は、けれどしっかりとキッスの嘴に助けられた。
「…あ、ありが、とう」
キッスは着地した時の荒々しさとは正反対に、優しく僕を地面に降ろしてくれた。もしかしてキッスは背中から降りる僕の大変さを考慮して、わざと振り落としたのかと思ったけれど、聞くことは叶わない。キッスは急くように僕の背中を押して、家へと押しやろうといるようだった。
「…わ、わかったよ。様子、見に行けばいいんでしょ?」
キッスは少し切なそうな声を出して僕を更に押しやった。キッスに押されるままに家の扉の前まできた僕は、一度深呼吸をして扉をノックする。
時間帯は既に深夜だ。普通ならココさんは寝てる筈だ。
「……ココさあぁん…いますかー?」
返事はなかった。キッスがぐいぐいとまだ背中を押してくる。
「…うーん。流石に、恋人…と、いえど僕が勝手に家に入るのはちょっと…」
その声に、キッスがぴたりと動きを止めた。僕の横までくると、一体どうしたのかは知らないが、その大きな嘴で器用に扉を開いた。
「…うわっ、器用だね、キッス」
また嘴でぐいぐいと押され、キッスが催促する。そんなに重大なことでも起きたのだろうか?
「お邪魔します…っと、わかったよ、行くからそんな押さないで?」
キッスは僕の言葉を理解したのか、その大きな頭を家の中に入れるとそのまま落ち着いたようだった。
僕はキッスの視線に催促されるがまま、家の中を見て回る。
家の中は当然、暗い。電気もつけられるけれど、ココさんを起したら可哀想だという想いから、僕は敢えて月明かりのみを頼りに家の中を歩いて、ココさんの寝室をまたノックする。
何度も訪れた家の中を把握している僕には、月明かりだけで十分だ。
「…ココさん?」
返答はない。随分深く寝入っているのだろうか。そっと寝室へと続く扉を開いて、僕は愕然とした。この寒い中、毛布もかけずに寝ているココさんがいたものだから。
「ちょっ、ココさん! 風邪引きますよ!」
見てみればカーテンも引かれていないし、ハント帰りらしいココさんの靴は汚れたまま。挙句に鞄も何もかもがそこら辺に散乱している。見れば服だって普段着のままだ。
ちゃんとしている彼にしては珍しい様子に、僕は近付いて彼を覗きこんだ。
「……ココさん?」
やっぱり反応はない。けれど、様子がおかしい。月明かりだけの部屋では判別がし辛くて、僕はそっと彼の額に手を触れてみる。
「…っ!」
すぐに手を引っ込めて、僕は鞄を落として慌ててキッチンへと向かった。尋常じゃない暑さだ。呼吸も荒いように見えた僕は、慌てて何かないかとキッチンや棚を勝手に漁る。
元よりココさんから、家の中のものは勝手に使っていいという許可は貰っている。
「あった。これと、あとこれと…」
もうココさんが起きたら可哀想という思いはなく、僕は躊躇することなく電気をつけた。暗闇の中で動くにも、限度がある。そして、今は躊躇している場合ではなかった。
タオル、氷、洗面器、あとは着替えに…と、必要なものを集める。それらを両手一杯に抱えて、僕はまた寝室の扉を行儀悪く足で開いた。
ベッドサイドにそれを置いて、ココさんのターバンを外して額に滲む汗を拭く。隣の居間から漏れてくる明かりがココさんの顔を淡く照らす。その頬は赤く、苦しそうに眉根に皺が寄っていた。
「…凄い、熱い」
氷をタオルで包んで首に押しあてると、幾許かココさんの顔が和らいだように思えた。
「……ん、んん……だれ」
「ココさん? 気がつきました?」
薄く開かれた目に、僕は苦笑する。首や腕に巻かれた包帯を取る最中のことだった。熱に浮かされたような、潤んだ瞳に僕は、この状況に相応しくもなくどきりと心臓を高鳴らせる。
「こまつ、くん?」
「…はい、小松です」
そっとタオルを洗面器に浸し、また絞る。ぼんやりとしたような瞳を向けてくるココさんの瞳に、いつもの光は見えなかった。
「大丈夫ですか? 風邪…だと思うんですけど」
「帰って」
額に再度タオルを乗せると、ココさんが弱弱しい声でそう言った。
「こんとろーる、効かない、から」
舌っ足らずな声でココさんがそう言った。どこまで優しい人なんだろう。と、僕はそのくすぐったさに静かに口元を緩めた。
「そんな状態で、一人残して帰るわけにはいきませんよ」
「寝たら、なおるから。君はかえるんだ」
「キッスが帰してくれませんよ。余計なお喋りは禁止です、何も気にせず、眠っていて下さい」
掌でココさんの目を覆った。暫く何事かを呟いていたココさんだったけれど、すぐに静かになる。余程辛いのだろうことは、見なくてもわかる。
毒の抗体があるのだから、風邪の抗体なんて普通に持っていそうだけど…と、思ったけれど、風邪は病気だ。毒とはまた違うのかもしれないと思い直す。現にこうして、ココさんは苦しんでいるし。
服を着替えさせてあげようとその体を覆うタイツに手を掛ける。躊躇は一瞬。僕は気合いを入れて脱がしに掛った。
勿論、僕が簡単に意識のないココさんを着替えさせられるわけがない。上半身を起こすことなんて、まず不可能だから、少しずつ脱がして行った。上から下までぴっちりと締め付けるそれを代えている間に、風邪を更に悪化させてしまうと思った僕は、ココさんの上半身まで脱がせた。
上半身を濡れタオルで拭いて、前で締めるタイプのパジャマを取り出して着替えさせる。それだけでもう僕は疲労困憊だ。
ココさんの下にある毛布は取り出せなさそうだったから、僕がいつも泊る時に使わせて貰う筈だった毛布を取り出して、ココさんに掛ける。
結局、いつも同じベッドで寝るから、恋人になってからは使ったことのない毛布だ。と、今は必要ないことまで思い出して、僕は勝手に一人で真っ赤になる。
それを振り払うように下半身も同じように拭いて、着替えを終える頃にはもう結構な時間が経っていた。
「……ふ、はあ…っ…つ、つかれた」
上半身にだけ掛けていた毛布を下半身にも掛けて、僕は額に滲んだ汗を拭った。額に乗せたタオルをまた洗面器に浸し、ココさんの額に乗せる。首元に当てていたタオルの中の氷も溶けていたから、また氷を包んでココさんの首筋に当てる。
僕は居間から椅子を持ってこようと立ち上がる。ついでに氷もまた作っておこうと思い立って居間に行けば、キッスが心配そうに未だ部屋の中を覗きこんでいた。居間は、開きっぱなしの扉から風が入って、大分寒い。
「もう大丈夫だよ。扉、開けっぱなしだとココさんの体に障るから、閉めてもいいかな?」
お伺いを立てると、キッスは了承したとばかりに頭を引っ込める。僕はキッスにおやすみと告げて、扉を閉めた。それでも心配なのか、ココさんの部屋が見える窓まで移動して、キッスは丸くなる。
ついでに何か消化の良いものでも作ろうと、僕はキッチンに立つ。
「何がいいかな。消化が良いのがいいよね。そういえば冷蔵庫に…――」
僕は色々考えながら料理に必要なものを出して行く。そこで、ふと色々なことが頭を過った。そのどれもが、今回の原因になっているんじゃないかと思い当たって、僕はちくりと痛むそれを胸に抱えて、暫く料理に没頭した。
「…小松君」
朝の柔らかい日差しが微かにカーテンの隙間から零れているらしい。瞼に感じる日差しが、眩しい。それと同じくらい柔らかい声で名を呼ばれ、頭をそっと撫でられたのがわかる。
「……んん」
「小松君、起きて」
ちょっと鼻に掛ったような声。僕が寝惚けたような声を出すと、ふうと一つ溜息が落とされる。
「…ふぁっ!?」
鼻を抓まれて、僕は思わず目を見開いた。
「…うぅっ、ん? あれ、えーと」
「おはよう」
ココさんは憮然とした表情だ。その顔色は、大分良いようで、僕は安堵する。
でもまだ油断は禁物。ココさんの頬はまだ赤いし、体温も昨日よりはマシになったとはいえ、大分高い。
「お、おはようございます。あの、大丈夫ですか?」
「帰ってと言ったのに、どうして帰らなかったの。それに、君、こんなに冷たくなって…」
ココさんの手が僕の頬に触れて、眉を顰める。僕が使う毛布はココさんの体に巻きつけていてなかったし、まさか病人のココさんと同じ布団で横に寝るわけにもいかなかった僕は、そのままタオルケットを体に巻いて、椅子で眠りこけていた。
「はは、厨房で寝てたこともあるくらいですよ。平気です、これくらい。それより、朝ご飯食べられますか? 昨日作っておいたんで、すぐにお出しできますけど」
「君はまず、お風呂で暖まっておいで」
「ココさんが朝ご飯食べてる間に入らせて貰います」
ココさんが言えば、僕が言う。今日は僕も引く気はなかった。それを悟ったのだろう、ココさんがまた溜息を吐いた。
「…わかった。貰うよ、まだそんなには食べられそうもないけどね」
「はいっ!」
僕はココさんに笑うと、ぱたぱたと寝室を後にする。昨日作った料理を温めて、お盆の上に乗せた。卵豆腐に、きのこレンコンやしょうが木、グルメミツバチの蜂蜜なんかをお湯で混ぜた飲物、あとは栄養あるものを細かく刻んで混ぜた雑炊だ。
「お待たせしました、なるべく消化が良くて、喉によさそうなものを作ってみましたけど、無理して食べたり飲んだりしなくて平気ですからね」
「ありがとう」
ココさんは照れ臭そうにそう言うと、ベッドサイドに置かれたそれに手を伸ばそうとする。でも、やっぱりその仕草はだるそうだ。
その伸ばされた手よりも早くスプーンを取ると、僕は雑炊を掬って息を吹きかける。
「小松君?」
「…まだ、辛そうです。たまには、僕に甘えてくれてもいいんじゃないですか?」
「僕はいつも、君に甘えてるよ?」
「…足りません。もっと甘えて下さい」
ぐいっとスプーンを差し出すと、観念したのかココさんが笑って口にした。もごもごと動く口を見つめると、また照れたように視線を逸らすココさんを、つい可愛いと思ってしまう。
「あんまり見ないで。格好悪い所ばっかり見られてるね、僕は」
「すいません。珍しくて、つい。こう言っては失礼ですけど、可愛いなって」
冷ましながら言えば、ココさんの頬がまた赤くなっていた。
「あれ、頬赤いですよ。まさか熱が…」
「…大丈夫。君のせいだから」
額を抑えたココさんに首を傾げると、「やっぱりわざとじゃないんだよね」と、ココさんは言って苦笑した。
それからは黙々と食べる方に集中し、ココさんは半分程平らげた所でぽつりと呟く。
「心配してくれるのも、色々してくれたのも有り難いのだけど…」
言い難そうにココさんが視線を逸らす。その口に雑炊を運びながら、僕は首を傾げて話を促した。
「意識のない僕は無意識に毒を出しているかもしれない。気化したものかもしれないし、液体のそれかもしれない。こんな風邪一つで、コントロールも曖昧になる程僕の状態は危うい」
キッスが連れてきたのは想定外だったから、次はこんなことがないようによく言っておく。ごめん。と、ココさんは言って、俯いた。
僕は一度、スプーンを置いた。俯いたココさんに優しく、声を掛ける。
「…最近、無理しすぎなんじゃないかと思っていたんです」
「え?」
顔をあげたココさんに、僕は微笑んで見せた。
「僕に会う為に、色々と調整してくれていたでしょう? ハントに行ったり、占い業を根詰めたりしてましたよね? それが、嬉しかったんです、僕。浮かれてて、そんなに危うい状態にまでココさんが疲れてるだなんて、思いもしなくて」
「違うよ、それは」
「昨日、ココさんの苦しそうな顔を見て、気付いたんです。僕はそんな風に、ココさんにばかり無理をさせていたんじゃないかって」
「僕がしたくて、していたことだ。自己管理が出来なかったのは僕の責任だよ、君のせいじゃない」
「ありがとうございます。でも、僕は貴方の恋人…ですよね? こういう時に頼って貰えないと、寂しいです」
ココさんはぐっと言葉に詰まったようだった。
やがて小さくまた息を吐くと、困ったように眉根を寄せた。
「参ったな。君は僕を甘やかし過ぎだよ」
そうやって言われたら、僕にはもう何も言えなくなってしまうよ。と、ココさんは困ったように、嬉しそうに言う。その表情がくすぐったくて、僕も微笑む。
「でもね、だからって君がこんなに体を冷やしていい理由にはならない。それじゃ元も子もないだろう?」
「…はい」
やっぱりちくりとする言葉を吐き出す人だ。僕はわざと逸らしていたその話題を出されて、口を噤む。
「わかったなら、お風呂に入ってきて」
「はは、わかりました。それじゃ、お湯、頂きますね」
「うん」
僕はココさんに見送られて、洗面所へと向かった。変な姿勢で眠ったからか、体の節々がちょっと痛かった。
それから安心していた僕は、間抜けなことに職場に連絡することをすっかり忘れてしまっていた。
風呂からあがった僕は、ココさんの「仕事はどうしたのか」という問いにはたと思い出して、慌てて連絡を取ると言う情けない結末を迎えることになって、ココさんは仕方ないなあ…と、いうような、そんな顔をしていたっけ。
それからその数日後、快復したココさんと入れ替わるように、セオリー通りなのかなんなのか、今度は僕が酷い発熱に苦しめられることになることを、この時の僕はまだ思いもしなかった。
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